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魔性の瞳  作者: 冬泉
第二章「惑う夢」
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魔性の瞳-58◆「魅惑」

■ヴェロンディ連合王国/王家の森


エリアドの言葉を聞き、レムリアはくすりと笑った。


「好きになるのに、理由は必要でしょうか。」


 そのまま、座った膝の上に頭を載せると、レムリアは視線を遠くへ振った。

 折からの涼風が、さやさやと浜辺の草を揺らしている。

 完全な静寂とでも言うのだろうか──聴力が麻痺したのではないか、とも思えるような静けさ。そんな中で、身動ぎもせずにレムリアは黙していた。微かにその背が上下していなければ、呼吸をしているとも思えなかっただろう。


「・・・先ほど、わたくしの行動は不調法、と申し上げました。」


 やがて、そっと囁く様に静寂を破る。


「その理由と、そして、何故この場所が好きなのか──それを、教えて差し上げましょうか・・・」


 その口調には、何処か危うげな響きが含まれていた。

 レムリアは静かに立ち上がると、さらりとマントを取り去った。マントの下には、華奢な躯にぴったりとフィットする乗馬服を身につけている。その紅い上衣に手を掛けると、一つ一つボタンを外していく。


 ぱさっと音を立てて、乗馬服の上衣がマントの上に重ねられた。


「・・・」


 ゆっくりと振り返ると、レムリアは黙ってエリアドを見つめた。

 その表情には不可思議な笑みが浮かび、その奈落の様に黒い深い瞳には、名状しがたい輝きが浮かんでいた。


               ☆  ☆  ☆


 静寂に包まれた森の湖畔。私は、まるでそのまま景色の中に溶け込んでいってしまいそうな彼女レムリアの後ろ姿をじっと見つめていた。


 やがて、彼女はどこか危うげな響きの混じった言葉をささやきながら静かに立ち上がり、さらりとマントを取り去る。続けて、乗馬服のベストに手がかかり、まもなくそれは地面に落ちたマントの上に重ねられた。

 

 彼女がゆっくり振り返り、漆黒の瞳がじっとこちらを見つめる。


「・・・レムリア殿。もし私のことをからかっているつもりなら、そのくらいにしてはもらえまいか。

 ・・・こう見えても、私とて男なのだ。妙齢の女性に、目の前でそのような行動を取られれば、多少は心が動く。」


 私は、彼女の顔に浮かぶ不可思議な笑みと黒き瞳に浮かんだ名状しがたき輝きとをじっと見つめ返しながら、しかし、語る言葉の内容とは裏腹に、さして心を動かされたという風でもなく、そのように応じた。

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