魔性の瞳-55◆「希望」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/正面玄関
レムリアは自分の馬の脇腹をそっと撫でると言った。
「“風の囁き”(WIND WISPER)が名前です。その名の通り、音もなく、風のように走ります。・・・国王陛下から、賜りました。」
その口調は、嘆息をするかのようだった。
想いを吐露仕掛けた自分の弱い心を叱咤すると、気を取り直すように笑顔を浮かべた。
「ふむ。・・・“風の囁き(WIND WHISPER)”か。似合いの名かもしれぬな。・・・君もよろしく頼むよ。」
エリアドは呟くように言うと、二頭の馬の鼻面をそっと撫でる。
そして、彼女が“風の囁き”に乗るのに手を貸しながらこう続けた。
「・・・このあたりの道はあまり詳しくないので、案内をよろしくお願いする。」
エリアドは彼女に続いて“月光”に乗ると、彼女の横に馬を並べた。
「行きましょう。」
想いを断ち切るかのように言うと、レムリアは“風の囁き”の促してゆっくりと進み始めた。
その胸中には、まだ先ほどのエリアドの言葉が渦巻いていた。
『私にはむしろ貴女のような女性の方が好ましく思える』
“そんなこと・・・”
自分が他人に魅力的に映るなど、レムリアには信じられない事だった。これまで、“魔性の瞳”と忌み嫌われ、近づいてきた者も自分の地位にの興味が有った――
“でも・・・”
でも――もしかすると、今までとは違うかも知れない。
仄かな希望を胸に、レムリアはエリアドを伴い、宮殿を後にした・・・。