魔性の瞳-04◆「決断」
■ヴェルボボンク子爵領/子爵館/客室
「・・・そうか。事情は、わかった。」
ラルフ・ロビラー“龍の盾”は愛用のパイプに火を付けると、濃い芳香を吸い込む。考え事をするとき、ラルフがよくやる癖だった。
「だが、今のあの娘の状態では、シェンドルに戻すことは感心せんな。例え、それが王からの要請であったとしてもだ。」
僅かに渋面を作った友人の顔を見て、ラルフはニヤリと笑った。
「相談するんじゃなかった、そうお主の顔に書いてあるぞ。フフフ、私の意見などとうに予想していただろうに。」
何か言おうとする友人を押しとどめると、ラルフは先を続けた。
「まぁ聞け。少なくとも、私はお主より10年は余計に経験を積んでいる。だからな、こんな時の解決策の一つくらい思いつくというものだ。」
一転、先程のリラックスした態度を改め、ラルフはウィルフリックに鋭く言った。
「ウィル、よく聞け。あの娘は、自らの力で自らを救わなければいけない。そうじゃなければ、一生誰かに依存して生きて行かねばならなくなる。それでも良いと言う娘は、世の中に幾らでもいる。だが、ケレブリアンも言ってただろう? あの娘は類い希ない“力”を持っている特別な子だ。我々は、あの娘が己の道を自らの意志で選択出来るよう、力を貸さねばならない。それが、我ら“天の騎士”たる者の勤め・・・違うか?」
ウィルフリックは頷いた。
「よかろう。では、私はレムリアに真理査様の試練を受けさせることを提案する。」
それだけ言うと、ラルフは黙した。重苦しい沈黙が、室内を支配した・・・。
ラルフ・ロビラーはヴェルボボンク子爵の親友です。常に愛用のパイプを手放さない温厚な人物ですが、その実、非常に熟練した巡察者です。その剣技の腕は、ウィル子爵も凌ぎます。