魔性の瞳-47◆「遠出」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/レムリアの居室
「・・・森と湖などは如何でしょう。とても綺麗な場所があるのですが・・・」
レムリアは遠慮するように微笑むと、躊躇いがちに言う。
「馬ならば小一時間というところでしょうか。ここから、さほど遠くはありません。」
「ふむ・・・。それはいい。では、そこにしよう・・・。」
と、エリアドはそこまで言って、はたと気づく。
「・・・すまない。あまり深く考えずに遠乗りに誘ってしまったが、馬にはお乗りになれるか? あまり乗り慣れないということであれば、私の馬に同乗していただいてもかまわないが・・・。」
注意深くレムリアの反応を観ながら、話を進めていく。
「・・・それとも、馬車を用意してもらった方がよいだろうか?」
困ったような表情を浮かべ、エリアドはわずかに言い澱んだ。
「・・・こうした経験がないものでな。・・・手際が悪くて申し訳ない。」
「心配しないで下さいませ。乗馬は得意ですので、馬で参りましょう。馬車では、途中通れないところもございますから。」
ちらりと窓から空模様を見る。雲間に多少切れ目が出てきている。
「お天気も少しは好転しそうですわ。わたくしは直ぐにでも支度が出来ますので、宜しければ空の気が変わらないうちに出かけましょうか?」
「・・・わかった。貴女にお任せしよう。私の方は、とくに準備するというほどのものはない。
・・・まぁ、馬の用意くらいか。」
至って軽装備に見えるエリアドであるが、にも関わらず、いつでもすぐに旅に出られる程度のものは持ち歩いている。『いついかなる時であっても、常に最高の状態で戦いに臨めるように。』と様々な装備(いや、装備だけではないが)を整えてきたエリアドである。それが困難に満ちた戦いの中で生き残ってきた知恵でもあった。
もっとも、自信を持ってそのように言えるようになったのは、それほど前のことではなかったが。
「それでは、半刻後に館の前で待ち合わせましょう。」
レムリアは、侍女のアンヌに食器を下げてくれるように頼むと。
「わたくしは失礼させて頂いて、着替えてまいります。では、のちほど。」
エリアドに一礼して、支度の為に隣室に消えた。