魔性の瞳-46◆「境遇」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/レムリアの居室
「わたくしの方は、特に何の心配しておりません。エリアドさまが“気にしない”と仰られるのであれば、遠乗りのお供をいたしましょう。」
レムリアの表情には薄い笑みが浮かんでいた。
「こういう言い方をしますと、お気に障るかもしれませんが・・・。共に世間に警戒されている身。人々に何を思われても、これ以上わたくしたちの立場が悪化するということもないでしょう」
カップにそっと手を伸ばすと、紅茶を一口含む。紅茶は少し冷めてしまっており、苦みが出てきていた。
“熱も・・・冷めれば、苦い・・・”
思い返してみても、この国にも都にも、心には辛い想いしか残っていなかった。
唯一の楽しい思い出は、ヴェルボボンクに滞在した2年間だけだった。
あとは──思い出すのも辛い、暗闇に覆われているようだった。
「・・・そうか。・・・そうだな。」
レムリアの言葉に、エリアドは低い声でそう応じた。
実際問題として言えば、彼女の言ったとおりであろうことは間違いないだろう。
エリアド自身は、決してそれ以上の結果を望もうとも、また望みたいとも思ってはいなかった。だが、そのようなセリフが彼女の口から出るのを聞くのは悲しいことだとも思った。
「・・・どこか行ってみたいところはおありか? ・・・と言っても、夕刻までには戻らねばならぬのだろうから、あまり遠出はできまいが。」
エリアドは静かに告げると、レムリアの反応を待った。