魔性の瞳-45◆「躊躇」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/レムリアの居室
「・・・お気遣い、ありがとうございます。でも…」
躊躇う想いに、レムリアの眼差しが揺れる。
「わたくし如きに、貴重なお時間を使って頂いても宜しいのでしょうか?」
「・・・そのように自分を卑下なさることはない。幸いなことに、今の私には、自由にできる時間が十分にあるし、その時間に貴女と共に過ごせる幸運を、私はうれしく思っている。」
エリアドは、彼女の言葉に躊躇うことなく、そう応えた。
それは、まぎれもなく彼の本心からの言葉である。
「そう・・・ですか。それなら、良いのですが・・・」
躊躇がないと言えば、嘘になる。
これまで、何人もの者が近づいてきた。だが、何れもレムリアが王妹であるが為、王に近づく一手段として利用価値があると思われただけだった。
“そうでなければ、こんなに忌み嫌われているわたしなどに、話しかける人などいない”
過去の哀しい経験から、レムリアは自然とそのように思うようになっていた。
“この人はどうなのだろう?”
目の前の人物は、人を近づけさせないような、先鋭的で排他的なオーラを身に纏っている。
過去に、辛い経験をしたのだろうか?
ただ、人嫌いなのだろうか?
徐々に、相手の事が気になり始めているレムリアであった。
レムリアが躊躇するのを、エリアドは無理もあるまい・・・と思った。
彼女の過去がつい昨日会ったばかりの他人の言葉を、そのまま無条件に信じられるほど恵まれていたとは思えないからだ。
「それより、貴女の方こそいいのか? 私のような悪名高い者と一緒にいると、またあらぬ噂の種になってしまうのではないか?」
唇の端にわずかに歪めて、エリアドは冗談ぽく笑ってみせた。
実のところ、けして冗談で済ませられるような問題ではないのだが。