魔性の瞳-40◆「嘆息」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/奥の部屋
「・・・」
部屋を出た私は、深い無力感に包まれ、小さくため息をついた。
彼女の心が深い絶望に覆われているということは感じ取れたが、それにどう応えればいいのか、まったくと言ってもいいほどわからなかったからだ。
おそらく、他人のために何かをしたいという心からの想いを抱いたのは、久方ぶりのことであろう。・・・にも関わらず、私は無力だった。彼女の絶望は、私が想像することができたものよりも、ずっと深いものであったのだろう。そして、その絶望は、“他者の拒絶”という形ではなく、むしろ“自分自身の否定”という方向に、その姿を現わしているように私には思えた。
ただ、彼女自身の中にも、その“否定”に対する迷いは、残っているのだろう。
だからこそ、私のような他人の言葉に幾分なりと耳を傾けるのであろうし、自らの想いをもらしたりもするのだろう。あるいは、私にとって、それがわずかな希望になり得るのかもしれないが・・・。
いずれにせよ、彼女はこの場所(この国)にとどまるべきではないのではないか・・・。私にはそんな風に思えてならなかった。
少なくとも、この国にいる限り、彼女の見る景色に変化はない。そして、そうである限り、彼女の目も他の想いが映ることはないのではないのか・・・。いささか極端な言い方ではあるが、私にはそのように思えてならなかった。
「・・・私に、何ができるだろう。」
漠然とした想いはあったものの、その時の私の中で、その想いはまだ確固たる形を取ってはいなかった。
何時もお読み頂き、有り難うございます。本編で以て、「舞踏会編」は終了となります。次回からは、「惑う夢編」がスタートします。今後とも、「魔性」を宜しくお願い申し上げます。