魔性の瞳-38◆「孤高」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/奥の部屋
思いの外、その腕の中は暖かかった。気を緩めると、このまま溺れてしまいそうだ。
しかし、それはただの現実逃避で、何らの問題解決にもならなかった。
“諦めるのは辛くない。いつもの、事だから・・・”
レムリアは意志の力を振る絞って、そっとエリアドの手を押しやった。
「・・・あるがままのわたくしで良いと・・・。あなた様からそれを伺って、わたくしは喜ぶべきなのでしょうか。それとも、哀しむべきなのでしょうか・・・。
どうあっても、わたくしはわたくし以外の者にはなり得ません。わたくしにとって、そんな自分がどのように観られようとも、どのように受け止められようとも、わたくし自身の本質には何の変化も生じない・・・」
俯いていた顔を上げると、思いの外強い光がその双眸に宿っていた。
「・・・同情、なさらないでください。同情して頂きたくて、こんな話を語った積もりではないのです。同情して頂いても、一時心が安まるだけ。その後に残る現実の厳しさに、やりきれない想いがより一層募るだけです・・・」
そう言い切ることに、どれだけの意志の力が必要なのだろうか。
安らぎと平和を遠ざけることを、何処まで受け入れられるのだろうか。
それが、簡単な訳がない。
それでも、徹頭徹尾、弱い想いを心の奥深くに仕舞い込み、レムリアは健気にも微笑みを浮かべた。
「戯れ言を申し上げてしまいました。どうか、お忘れになって下さい。宴に浮かれて、わたくしはどうかしていたのでしょう。また明日になれば、変わらぬ笑みで歓迎申し上げますでの、今宵はどうかお引き取り下さいませ」
丁寧に頭を下げた姿からは、内面の葛藤など微塵も感じさせなかった。