魔性の瞳-37◆「願望」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/奥の部屋
私は、彼女の肩をそっと抱き寄せる。
「もし貴女の心が、普通の人であるかのように振る舞うことを望むのであれば、そのようにすればいい。・・・それで、貴女の心が背負う重荷が少しでもやわらぐものならば。」
そして、彼女が落ち着くのをしばし待つ。
彼女の身体の微かな震えが止まるのを待ち、私はゆっくりとこう続けた。
「・・・『人に有らざる者が人に憧れることと、普通の人が暗い道に踏み込んでしまうことの間には、飛び越せぬ深い溝がある』・・・貴女がそのように言うのなら、おそらくそれは正しいのだろう。」
そう続ける声は、すでに震えてはいなかった。
「・・・だが、このことはわかってほしい。私はけして貴女が言うところの普通の人のような貴女の答えを期待して、貴女に言葉をかけたわけではない。貴女が、貴女自身の言うところの人に有らざる者であろうと、あるいはそうでなかろうと、私にとって、そのことはさほど気になるようなことではないのだ。」
私は、彼女の漆黒の瞳を正面からじっと見つめる。
「・・・それは、たとえ貴女が何者であろうとも、その在るがままの貴女を理解したいと、私が望んでいるに他ならないからだ。」
私は静かに言った。