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魔性の瞳  作者: 冬泉
第一章「舞踏会」
36/192

魔性の瞳-35◆「慰撫」

■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/奥の部屋


「・・・貴女あなたは、優しい人間ひとなのだな。」


 私は、ふぅというため息にも似た深い息をして、彼女レムリアの言葉にゆっくりとそう続けた。


「・・・これまで、貴女あなたがこの国でどのような目にあってきたのか、私には想像することしかできないが、少なくとも、良い“想い出”と呼べるようなものがさほど多くないだろう、という程度のことはわかる。・・・にも関わらず、貴女あなたは、この国を覆う災厄の予感に心を痛め、そして、それが自分の罪深さゆえの“業”の為せるものだと思っている・・・。

 ・・・たぶん、貴女あなたは、貴女あなた自身が思っているよりもずっと人間ひとらしい人間ひとなのだ。私は、これまで、貴女あなたのように涙一つこぼさず、心で泣く人間ひとを見たことがない。・・・だが、本当に哀しい時、本当に深い絶望に囚われた時には、涙など出てきはしない。・・・少なくとも、私はそのような深い哀オみや絶望があるということを知っている。」


 自分でも、声が震えているのがわかった。


「・・・あるいは、貴女あなたの観た夢は、“真実”になるのかもしれないし、“真実”にはならないのかもしれない。残念だが、私には貴女あなたの観た夢そのものについて言えることはほとんど何もない。・・・だが、貴女あなたの気持ちが、まったくわからぬというわけでもない。」


 薄闇の中、私は少しだけ間を置き、彼女レムリアの傍らにそっと近づく。

 そして、彼女の返事は待たずにこう続ける。


「・・・私が“阿修羅”という名の魔性の剣を持ち、“魔剣士”と呼ばれていたということは御存知だろう。・・・実際、一時期の私は、“魔剣士”と呼ばれるにふさわしい行動を取り、目の前に立ち塞がる“敵”と戦う・・・いや、敵を殺す・・・ことを楽しんでさえいたということは、まぎれもない事実なのだ。私は、私の中にそういう自分がいるという事実を否定するつもりは微塵もない。

 ・・・あの頃の私は、“阿修羅”が背負う“業”を、自分一人で背負ったつもりになっていた。その“業”の何たるかを知ろうともせぬまま、それを背負う自分に酔ってさえいたのかもしれぬ。

 失礼な話だが、今の私には、貴女あなたがあの頃の私自身と重なって見えているのかもしれぬ・・・。あの頃の私と、今の貴女あなたとの違いは、おそらくそばに自分を信じてくれる者がいたか否かという以上のものではないように思えてならないのだ。

 ・・・ゆえに、そして、だからこそ、私は貴女あなたの優しさを信じよう。

 貴女あなた自身さえ信じていない貴女あなたの優しさを、私は信じよう。」


 そして、私は彼女レムリアの背に外套をそっとかけた。



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