魔性の瞳-34◆「慟哭」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/奥の部屋
「・・・では、戯れまでにお聞き下さいませ。」
溜息を漏らす様に言うと、レムリアは語り始めた。
「夢を・・・観ています。心が暖まる、温もりのある夢を・・・。
それは、決して現実となることがない。だから、安心して観ていられるのです。
夢が、夢で終わることを哀しく想うこともありますけれども、自分に夢観る自由が残されているのならば、それだけで良しとしよう──そう想うのです」
両手を握りしめて項垂れる。
「“魔性の瞳”──わたくしの瞳の事はご存じでしょう?
人が覗き込んではならない、“原罪の証”。本来なら、この瞳が為にこの国では即座に断罪されていたことでしょう。
運良く−−などど言ってしまっても良いのかわかりませんが──わたくしは王家に繋がる者として生を受けました。王陛下と王妃殿下は優しくも、こんなわたくしでも許してくださっています。けれども・・・」
声がだんだんと高まっていく。
「・・・けれども、この国を覆うであろう災厄が、黷オみと暗闇に覆われている未来が、わたくしには観えてしまっているのです! 美しき都が戦火の中に崩壊し、国土の大半が蹂躙され、多くの人が命を落とし・・・」
どうしようもなく躯が震えている。握りしめた両手は、血の色が失せて白くなるほどだった。
「・・・これは、狂気に生きるわたくしが、望んで観ている夢が為の夢なのでしょう。
そう・・・人で有らざるわたくしが、人の中で生きていることの・・・
これはわたくしが背負った“業”かも・・・しれません」
不思議と、涙は流れなかった。いや──流す涙など、とうに枯渇しているのだろう。
静かに、そして深い絶望を持って、己の運命に流されているだけ。そう言っても過言ではなかった。