魔性の瞳-33◆「暗闇」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/奥の部屋
「・・・どうぞ・・・」
抑揚のない声。だが、その言葉の語尾には微かな震えが混じっていた。
中庭に面した大きな窓から、星明かりが差し込む。部屋は、静けさの中に沈み込んでいるようだ。
やがて・・・小さく溜息をつくと、レムリアは身動ぎしてベッドの上に躯を起こした。
「退屈・・・されているのではありませんか? 少し、お話いたしましょうか?」
どんな表情で言ったのだろう−−僅かな星明かりでは、相手が何を想って話しているのか、確かめる術もない。
「不作法ではありますが、エリアドさまさえ宜しければ、このままでお話しさせてくださいませ。」
微笑みの感情が伝わってくる。声にも、感情の色合いが含まれている。
だが・・・シンシンと静まりかえる様な部屋の雰囲気は変わらない。
彼女の返事は微かに震えていた。本来なら、それは私にとって喜ぶべきことだ。彼女の本当の心が・・・少なくともその一端が・・・顔を見せているのだから。
しかし、今の私には、それがこのような時であることが無性に切なく、そして、哀しかった。
私は、ただ静かに星明かりに浮かぶ彼女の影を見つめ続けた。
しばしの後の彼女の問いかけに、
「・・・あぁ。」
と短く相槌を打ち、私は微かに頷く。
それ以上何か言えば、私の声もまた彼女のように震えるだろうとわかっていたから・・・。