魔性の瞳-26◆「下衆」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/庭園
伝わってくる氷の気組みに動ぜず、振り返って相手を認めると、一転男は奸悪な表情を浮かべた。
「“魔剣士”エリアドか・・・。お初にお目に掛かる。ヴァルガー・オフ・エルド。連合王国の男爵にして、マーガレット姫の正式な許嫁である。我が我が未来の花嫁に何をしようが、貴公の関知するところではあるまい? それとも、貴公も“騎士道”が勧める愚かな義侠心に突き動かされて、己が踏み込んではならぬ領域に蛮勇を持って乗り込んできたのか?」
低く嘲笑うと、横たわる白い躯をあごで示した。
「それとも・・・貴殿、この娘に執着か? 他ならぬ名高い魔剣士の貴公が“どうしても”と望むので有れば、この娘を譲ってやっても良い。もはや、執着すべき“モノ”も無くなったことだしな。」
その狡猾そうな顔に、下卑た笑いを浮かべて恩着せがましく言う。
「・・・“下衆”のうえに“愚か者”とは、始末に終えぬ。」
私は、聞こえよがしに吐き捨てた。
地面に横たわる彼女に近寄り、そっとクロークをかける。
「・・・私がなぜ“魔剣士”と呼ばれているか、知らぬわけでもあるまい。おまえが何者であろうが、私の知ったことではない。」
スラリと腰の剣を抜く。無造作に男に近寄ると、そのまま剣を一振り。
わずかに相手の髭を斬り落とすか落とさぬくらいの距離で振るうと、そのまま鞘に戻す。
「・・・この寒い中、季節はずれの蝿が飛び廻っているようだ。鬱陶しいとは思わぬか?」
相手の目の前でこれ見よがしに手袋をはずし、相手の顔にぶつける。
「・・・はずれたか。だが、季節はずれの蝿にもまして、私は、この国に巣喰う(おまえのような)蛆虫が一番嫌いだ。」
両手を身体の脇にたらした無形無手の型。
「・・・剣を抜け。言っておくが、私はおまえが剣を持っていようといまいと、気に入らぬ相手に手加減する趣味はないぞ。」
そのまま、私は相手との距離を一気に距離を詰めた。
何時も拙文をお読み頂き、有り難うございます。感謝の意を込めて、本日は一遍追加でアップ致します。今後とも、宜しくお願い申し上げます。