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魔性の瞳  作者: 冬泉
第一章「舞踏会」
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魔性の瞳-21◆「空虚」

■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)


「臆病・・・?」


 レムリアの中で、何かが燃え上がったようだった。或いは、何かが溢れ出ようとするのか。

 意志の力を振り絞ると、レムリアは“それ”を押さえようとした。


 決して“これ”を見せてはいけない・・・


 気持ちを整えるように、幾度か大きく息を付く。

 もう大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。


「・・・そうなのでしょう。いえ・・・。そのように思って頂いても結構です。」


 漸く、それだけを口にする。


 顔を上げると、何も感じていないかのような、無表情な仮面が出迎える。

 自分の胸の胸の鼓動が聞こえている。

 何かが、流れ出していく。

 胸の内に、奈落のような空虚な部分が広がっていく。



――何も感じない。何も感じられない。何時も・・・同じ事・・・



 隙有れば暴走しようとする“それ”を、どうにか押さえきる。



――今は、駄目・・・今は・・・


 少しずつ、“それ”は収まってきた。

 何とか自分を落ち着かせると、自分の想いを言葉にする。


「エリアドさま。健全な人がこそ夢を観るのです。狂い続ける者は夢に生き、せめて現世うつせの夢を観ようと想うのですから。」


 他人にここまではっきりと言ったことはなかった。

 言えば、また差別のネタになるだけだったからだ。


 しかし、エリアドは黙ったままだった。


 小さく一礼すると、レムリアはバルコニーを後にした。

 通り抜けたガラス戸を通して、バルコニーに残した相手の佇む姿が瞳をよぎる。

 軽い嘆息を一つ漏らすと、レムリアは後ろを振り返らずに歩み去った。



               ☆  ☆  ☆



「・・・どうやら、彼女の誇りを傷つけてしまったらしいな。」


 バルコニーに残されたエリアドはぽつりと言った。


 失言だったか・・・。

 ゆっくりと夜空を見上げる。

 その言葉の耳にした瞬間の彼女の微かな変化は、かろうじて感じ取れた。


「だが・・・。」


 自分は狂気に包まれ、夢の中に生きていると言いたいのだろうか。


「・・・それは哀しい考え方だ。」


 手にした“阿修羅”に視線を落とし、小さく呟く。

 なぜ、そのように感じるのか、しかと判りはしなかったが。



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