魔性の瞳-20◆「乖離」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)
「あぁ。」
レムリアの言葉に、エリアドは自分自身の中で温度が下がってゆくのが判った。
“期待し過ぎたのだろうか?
いや、そもそも私は彼女に何を期待していたのだろう・・・。
彼女の中に、期待させられる何かがあったことは間違いない。
だが、それがそのまま彼女に期待してもよいということには繋がらない。
それだけのことだ・・・”
「結局、人は自分が見たいものを見ようとする・・・か。」
唇の端に浮かぶ、自嘲気味の皮肉っぽい微笑み。
俯き加減のレムリアに向かって言う口調には、存外失望の色が含まれていたのかも知れない。
「・・・君も存外臆病だったのだな。
『人が、人で有り続けるために狂わねばならないとしたら・・・』
とまでの問いを発したにも関わらず。」
社交辞令のような言葉には、して興味を惹かれはしない。
「・・・だが、無理もあるまい。人は、他人との距離を保つことによって自らを守ろうとする孤独な生き物でもある。・・・誰にその臆病を責められよう。・・・私とて、やがて訪れるであろう暗黒の恐怖に打ち克つ方法を、その恐怖に怯えながら模索する一人の孤独な人間に過ぎぬ・・・。」
少しの間、魅力的とも思える漆黒の双眸を見つめる。
「今宵のところは、私もこれにて失礼させていただこう。
良き夢を・・・な。
マーガレット・レムリア・オフ・ヴェロンディ」