魔性の瞳-19◆「失望」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)
「さぁ・・・どうなのでしょうか。」
エリアドの言葉を聞きながらも、レムリアの心には急速に影が差してきていた。
“わたしの何を判っていると言うの? わたしに何を期待すると言うの?”
先程までの雰囲気は、一気に吹き払われていた。
“魔剣士”と畏怖されているとは言え、エリアドは普通の生を生きてきた人なのだろう。そんな人が、生まれながらに差別されてきた自分と、何処に類似点を見いだせると言うのだろうか。一体、自分の何を判っていると言い切れるのだろうか。
納得できない想いがレムリアの中で渦巻き、いやが上にも膨れあがっていく。
「仰っていることですが・・・わたくしには、判りかねます。」
言ってしまってから後悔する。自分の精神修養の甘さには嘆息するしかないのだが、時既に遅し。
「・・・」
だが、自嘲気味の笑みを浮かべるレムリアを見ながらも、エリアドは無表情で黙したままだった。
気がつくと、ホールからの喧噪が聞こえなくなっていた。
宴もそろそろ終わりに差し掛かっているのだろう――見ると、あれほどいた招待客の数も疎らになってきている。
相手も、自分に興味が薄れてきたことだろうし、ここは切り上げ時だろう――レムリアは今一度顔を上げると、出来得る限り明るく聞こえるように声音を作る。
「今宵は、興味深いお話しをありがとうございます。これからも健やかにお過ごしに成られるよう、祈念申し上げます。」
ドレスの裾を持ち上げると、優雅に一礼する。
“そう・・・これでいい。わたしはわたし。人とは異なる道を歩いている。一時交わることがあっても、長くは続かない。今までもそうであったし、これからもそうだろう”
ゆっくりと息を吸うと、レムリアは別れの言葉を口にした。
「それでは、ご機嫌よう。エリアド・ムーンシャドウさま」