魔性の瞳-189◆「心痛」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂
エリアドの言葉は、レムリアの心の中に漣を(さざなみ)を立てた。
“厄介な状況”
そう、確かに、状況は厄介だった。その原因となっているのが自分だろうと思うと、レムリアの心には更に大きな波が生じていた。
「姫君? お加減が宜しくありませんか?」
その表情を暗くしたレムリアに、セイが声を掛ける。
「・・・いえ――少し、闇の気に当てられましたが、今はもう大丈夫です」
「それなら、宜しいのですが・・・」
セイが言葉尻を濁して言うのをハリーが引き取った。
「姫様、無理は禁物ですよ。我らが付いております故、大船に乗った気持ちで居て下さい」
場の緊張を和らげようと、敢えて軽妙に言うハリーの言葉は、だが虚しく宙に消える。普段は、ハリーの言葉に突っ込むセイも押し黙ったままだ。
「・・・国王陛下の元へ参ります」
やがて、漸くレムリアがそう言うと、生真面目に一礼してセイが言う。
「判りました、姫君。謁見の間まで護衛致します」
「ま、陛下に顛末をご報告しなければね」
ふぅ、と一息つくと、ハリーは行儀悪く親衛王騎士達に顎を杓った。そんなハリーの不調法にも成れてイルンか、親衛王騎士達は眉根一つ動かさずに、左右に分かれて随行の位置に付いた。