魔性の瞳-176◆「具現」
■ヴェロンディ連合王国/王都/回廊
「セイ、今は先を急ぎましょう」
後悔の念を一杯に浮かべたセイに、レムリアは努めて優しく言うと、脚を早めた。
「判りました、姫様。」
しかし、と続けようとした自分を制して、セイは頷いた。確かに、今は優先すべき事がある。セイは、気を取り直してレムリアの後を追った。
「おっ? 姫様にセイ!」
次の角を曲がれば謁見の間という所で、数名の騎士を連れたハリーにぶつかった。
「ハリー! どこへ行くのか!」
「大聖堂さ。どうも、あそこが一番きな臭いからね」
セイが見ると、ハリーが連れている騎士達は何れも緋色のマントに金色の“護王位”の紋章をつけている。これは数居る近衛騎士の中でも、特に選ばれた指折りの親衛王騎士ばかり。
「最精鋭を投入か。陛下のご指示か?」
「そうだよ。陛下は、アクティウムと契那が直衛に入っている。近衛軍も動員済みさ。下手すると、ここに直撃がある」
「何と・・・」
その時。ビクンと身を震わせてレムリアが今来た方向を振り返った。
「姫様?」
訝しげに聞くセイに、レムリアは蒼白な表情で叫んだ。
「セイ、ハリー! 大聖堂に、何か、何か迫ってきます!」
セイとハリーは一瞬顔を見合わせた。
「サイラスっ! 陛下とアクティウムに報告しろ! オレはセイと一緒に大聖堂に行くっ!」
「判りました、ハウ卿!」
騎士の一人が踵を返すと、謁見の間に向かって走っていった。
「残りは、オレとセイと一緒に来いっ」
「わたくしも行きます!」
決意を秘めたレムリアに、ハリーは笑みを浮かべて言った。
「端から戦力に計算しておりますよ、姫様」
「ハリー! 行くぞ!」
セイが走り始めた。近衛騎士達がその後に続く。レムリアとハリーは互いに一つ頷き合うと、セイと近衛騎士達の後を追った。
超低速の更新ですが――魔性176をお送りします。他のお話しも(残念ながら)全て停滞しておりますが、時間を見つけて、細々とは書いておりますです、ハイ。