魔性の瞳-175◆「処断」
■ヴェロンディ連合王国/王都/回廊
全てを知って欲しい──そんなレムリアの想いは、セイには理解しづらいことだった。他人に自分を晒け出すことが、どれだけ勇気のいることかは理解できる。だが、レムリア姫が、どうしてそこまでしてあの魔剣士を信用するのかが、セイには判らなかった。
「姫様、不躾ながらお尋ねします。姫様は、如何ほどムーンシャドウ卿をご存じなのでしょうか」
「どうして信頼するのか、セイはそれを疑問に思うのね」
どうにも判らない──そんな想いを込めて、セイは頷いた。
一つ嘆息すると、レムリアは続けた。
「・・・そうすべきと感じた、と言っても、セイは納得してくれませんよね」
「何故か納得させて頂きたい、というのが私の我が儘であることは承知しております。しかし・・・」
普段、過激なまでに直接的なセイにしては珍しく、一旦言葉を濁した。そんなセイの心情を察してか、レムリアは自分で言葉を続けた。
「わたくしが誰かに依存してしまっているかも知れない――それは、わたくしの心の弱さ故だと。それが気になるのですね」
「姫様・・・」
「この様な言い方でごめんなさい。でも、セイの懸念も判ります。わたくしの心が弱まり、他人に付け込まれれることがあれば、都の結界に容易に穴が開く──その様な事態は、どうあっても避けねばならなりません」
セイは言葉が出なかった。そんなセイに、レムリアは微笑みかけた。
「理解して貰うのは、難しいと──そう思います。でも、信じて下さい。この国を危うくするくらいなら、わたくしは自らを処分いたします」
毅然と、レムリアは言い切った。
「その、覚悟は出来ています」
☆ ☆ ☆
「姫様・・・」
何故こんな事を問うたのだろうか。セイは、迂闊な自分の失言を深く悔いた。責任感が人一倍強いこの姫君が、何というかは十分予測出来た筈なのに・・・。何の為の王国三騎士か。誰を守る為に、騎士に志願したのか。
「ごめんなさいね、何処までも、わたくしの我が儘で、」
「姫様っ、そんな! 我が儘だなんて仰らないで下さい! 私が余計な事をお尋ねしたからいけないのです!」
「いいえ。わたしくが為に、国を危うくしている事は事実です。エリアド様の事が無くても、わたくしは、自分の身の振り方を考えねばならない時期に来ていたのだと、思っています」
だから、今のことは気にしないで下さい──そう結んだレムリアは微笑んだ。セイは、その笑みに深い悲しみと諦めを感じ取り、心中愕然とした。
大変長らくお待たせしてしまっております。魔性175をお送り致します。