魔性の瞳-174◆「氷解」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂→回廊
無人の回廊に二組の足音が響いている。一つは、柔らかく、一つは堅く──レムリアとセイは、急ぎ王宮の謁見の間を目指して先を急いでいた。
セイの心には、先程からちらちらと揺れる疑問が渦巻いていた。あの者──あの者は、姫様は一体どう思っているのだろうか? 兎に角、聞いてみなければ答えも出ない。気が進まない乍らも、セイは一抹の不安をも払うべく行動を起こした。
「姫様、あの・・・」
セイにしては珍しく、歯切れの悪い切り出しだ。
「姫様とあの者は、如何なるご関係でしょうか?」
「あの者? エリアド様のこと?」
「はい。」
斯様な事態で、謁見の間に向かっている状態で、おかしな話をしている、そんな感じはあったが。セイの心配も理解できるレムリアは、慎重に言葉を探した。
「わたくしの独り善がりかも知れませんが…互いに心を開ける方だと、思っています」
「お互いに理解できると?」
「理解、では無いかも知れません。同情でも、お互いに支え合う、でもありません」
「では、どの様に?」
レムリアの言葉に、セイは些か困惑した。そんなセイに、レムリアは柔らかい笑みを浮かべて言った。
「自分をさらけ出しても良い、そう思える方、ですね」
「・・・」
自分をさらけ出す──その言葉が躯に染み込むにつれ、セイは目を見開いた。心を開く? 斯くも排他的な姫様が・・・心を開く・・・?
“それが本当で有れば・・・”
「人は、出来るだけ自分を綺麗に見せようとする。でも、光と闇の申し子である人は、その内面に葛藤と矛盾を抱え込んでいる。どんなに表面上取り繕っても、内面は誰にも判らない・・・」
「・・・その判らない、いえ判らせたくない内面を、姫様はあの者が知ることを良しとすると・・・」
「そうですね・・・」
レムリアの心の中でも、葛藤が残っていないと言えば嘘になる。だが、レムリアは表層に浮かび上がったものよりも、心の奥が感じていることを信じようとしていた。
「・・・相手に自分を晒すのは、自分を捨ててしまう様な事にも思えます。けれども、わたくしのすべてを知って貰いたい、全てを知って、その上でどうされるかを決めて貰いたい──そう想うのです」
わたくしの、我が儘かも知れませんが、とレムリアは結んだ。
大変お待たせしております。魔性の174話をお送りします。年度末でどうにも多忙で、4月一杯更新不順きち続きます。恐縮ですが、気長にお待ち頂ければ、と思います。