魔性の瞳-167◆「旋律」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂
光が瞬くように、金の粉となって降り注いでいた。仰ぎ見た天には、眩いばかりの蒼い輝きで満ちていた。荘厳なるも、心に染み込むような天上の旋律が、全てを癒していく──そっと、レムリアは膝を着いた。
泣きたくなる程の郷愁と、包み込まれるような暖かさには覚えがあった。そう──あれは、タインの広場のこと。この“蹟聖の剣”である『タインの剣』を授かった時を思い浮かべた。和と智を司る“銀の髪の乙女”──その人に相違なかった。
「これは・・・“始源の光”・・・」
放心した様に光り輝く天を見上げ、契那も呟いていた。全てを包み込む様な、慈愛に満ちた旋律が大聖堂を振るわせている。
「・・・えぇ。これは、“銀の乙女”の賜です・・・」
「・・・“銀の乙女”か・・・」
微笑みを浮かべ、レムリアとセイは言葉を交わした。
「傷が治っていくよ。凄いものだね、“乙女の祈り”は」
ふぅ、とハリー・ハウは大きく息をはいた。
「おや。黒の大将も何時の間にか姿が見えなくなっているな」
この光の中じゃ無理もないか、とハリーは皆に笑いかけた。
「さて、傷も治った事だし。早速事後処理と行こうか」
「判った。貴殿と契那で陛下とアクティウムに報告を。敵を手引いたのはエルド男爵だとな。それに、城内にまだ手の者がいるやもしれぬ」
「対応策を奏上しておくよ。お前さんは?」
「レムリア殿と二人で結界の具合を確認しておく」
セイの言葉にレムリアは頷いた。
「終わったら、私も後を追う」
「判った。じゃ、契那ちゃん、行こう」
「はい、ハリーさま」
ハリーと契那は、急ぎ足で大聖堂を出て行った。