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魔性の瞳  作者: 冬泉
第五章「闇の舞」
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魔性の瞳-166◆「実力」

■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂


 手応えは、確かにあった。しかし、“阿修羅”に両断されたはずの男が浮かべた嘲笑の笑みが絶えることはなかった。


 ・・・“幻影”か? ・・・いや、それはあり得ぬ。


 そう、“阿修羅”を手にした私には、“幻影”を始めとする精神に働きかける魔法の類いは通じない。


 しかし、そう思っていてさえも“幻影”ではないかと疑いたくなるほど鮮やかな手際だった。

少なくとも、私の目には男が傷ついたようには見えなかった。


 もし私の手に残ったその感触がなければ。そして、私の手に握られていた剣が“阿修羅”でなければ。

あるいは、私はそれが“幻影”の類いを使ったトリックだと信じたかもしれない。

しかし、私は自分の手に残ったかすかな感触と、そして、“阿修羅”を信じていた。


 もしそうだとすれば。


 ・・・傷を受けなかったのではなく、受けた傷を瞬間的に再生したとでもいうのか?

 とはいえ、私の知る限りにおいて、“阿修羅”によって受けた傷は、再生できるようなものではない。


 そして、もしそれが間違っていないとすれば。

・・・それは再生などという生易しいレベルのものではないということになる。

あるいは、失われた部分を瞬間的に創り出したとでもいうべきか・・・。


それは、まさに定命のモータルの技ではあり得ない。


だが。


・・・そんなことが本当にあり得るのだろうか。

この男が、定命のモータルではない、などと言うことが・・・。


いや、仮にそうであるとしても。

むしろ私がまだ“阿修羅”を使いこなせていない。

そう考えるべきだろう。


・・・すまぬな、“阿修羅”。


私は、浮かんだ疑念を頭の中で打ち消す。

いずれにせよ、このラ・ルという男は、こちらの想像以上に厄介な相手だということだけは間違いないようだった。


しかし。


幸いにして、というべきか。その男の浮かべた嘲笑の笑みも、そう長くは続かなかった。



『こ、これは・・・』


まるで阿修羅の奏でる無言の旋律に重なるように、どこからともなく響いてきたもう一つの旋律が男の笑みを止める。


『・・・貴女が手を貸すというのか? “心の護り手”たる貴女が?』


 男の呟いた言葉の意味は、しかし、その時の私には想像することさえできなかった。


『邪魔が入った。今宵はここまでとしよう。』


 その男の言葉に、“場”を支配していた空気がかすかに緩んだような気がしたのは、けして気のせいだけではないだろう。




「・・・それは残念だ。」


 いや・・・、僥倖だと考えるべきなのだろう。

 そう、おそらくこの男の相手をするのは、けして容易なことではない。 

もし仮に、この男が定命のモータルではなかったとしても、“阿修羅”を使ってただの一矢すら報いられなかったのだとすれば、それが悔しくないといえば嘘になる。


 ・・・しかし、あるいは“阿修羅”を使いこなせて、ようやく同じ戦場に立てるかもしれぬ、といったところか。

 あちらにしてみれば、おそらく今の私たちなど、歯牙にかける必要すらない程度の相手なのかもしれぬ。


 そんなことを思ったが、口をついて出た言葉は違っていた。


「・・・だが、願わくば、このまま本来の居場所にお戻りいただきたいものだ。・・・貴殿は、かの御方と同じく、この世界──いや、少なくとも今ここに在るべきではない。・・・理由はわからぬが、そんな気がしてならぬ。」


 私は男を見据えて、そう応じた。

 むろん、そのまま素直に引き下がるような相手だとは、あまり思っていなかったが。



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