魔性の瞳-165◆「加護」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂
「・・・ククク・・・」
手応えは確かにあった。阿修羅の一撃は、間違いなく相手を両断した筈だった。だが、低い嘲笑の笑いは絶えなかった。
「ククク・・・定命の者の力が如何程の物か。そうと知れば、それがはなから無駄無為な行動をと知るが良い・・・む?」
訝しげにラ・ルは周囲を見回した。天空から、恰も羽雪が如く舞い落ちる様に、光の煌めきが降ってきていた。仰ぎ見れば、大聖堂の天井が一面光の海となっている。
「なんと・・・」
静かな旋律が流れていた。阿修羅が無言の波動に重なるように、その旋律は徐々に強く響きわたる。それは心を支え、躰を暖め、意志を強めて行く。
ラ・ルは驚愕に目を見開くと、煌めき降る天を睨み付けた。
「・・・貴女が手を貸すというのか? “心の護り手”たる貴女が?」
ふっと笑うと一つ息を吐き、ラ・ルは己が禍々しい黒の大剣を背後にすっと仕舞った。斬撃の姿勢で立つエリアドと、彼を護る様に立つレムリアを見る視線からは、既に先程の動揺の色は感じられなかった。
「邪魔が入った。今宵はここまでとしよう」
くるりと二人に背を向けると、ゆっくりと大聖堂入り口に向かって歩き出した。