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魔性の瞳  作者: 冬泉
第五章「闇の舞」
163/192

魔性の瞳-162◆「誓言」

■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂


『闇より出し(いでし)、

 影より深き。

 時嶽じがくの彼方、

 闇称あんしょう聞こゆる。』


 そのラ・ルの発した闇句に“阿修羅”の刀身が輝きを失ってゆく。


『闇に属するモノは、闇に還れ。自然な流れであろう?』


 ・・・その彼の言葉は、少なくとも“まったくの嘘偽り”というわけではあるまい。


 それは、けして私の中にある“迷い”や“弱気”がそう思わせたわけではない。


 ・・・しかし、それはまた完全な“真実”というわけでもない。


 私の中で、何かがそうささやく。


 ・・・そう、物事は、その視点によって見え方が変化する。

 ・・・大地に、太陽リガに照らされた“昼”と闇に包まれた“夜”があるように。


 古の聖句が“光”をもたらすのであれば、闇句は“闇”をもたらす。


 ・・・それは、あたりまえのことなのだろう。


 こういう言い方をすると傲岸不遜に思われるかもしれないが、不思議と“闇”そのものに対する恐怖は感じていなかった。あるいは、それは私の信奉する“星々と放浪者の神”たるセレスティアンが、深遠なる宇宙そらの闇の彼方を、探索し続ける神であるせいだったのかもしれないし、かつて“魔剣士”として“阿修羅”の持つ“闇”の一端に触れたことがあるせいだったのかもしれない。


 確たる答えはわからなかったが、


“阿修羅”は、“光”に照らされるだけの存在でも、“闇”に包まれるだけの存在でもない。

“阿修羅”の本質は、“光”に照らされようと、“闇”に包まれようと、変わるわけではない。


 それは、確かなことに思えた。


 ・・・むしろ、問題は私自身の中にある。

 ・・・そう、私自身の中にある“闇”に、私自身が呑み込まれずにいられるかどうか。


 ・・・私一人なら、あるいは・・・


 という考えが浮かばなかったと言えば、嘘になる。

 それは、おそらく私自身の中にある“闇”の誘惑に他ならない。


 だが・・・。



『させないっ!!』


 耳に飛び込んできたその叫びに、私は冷静さを取り戻す。


いにしえの時代に育まれたことわりに従い、我が今汝を呼ぶ。大いなる祖父よ! 我の問い掛けに応えよっ!!』


 その言葉には、彼女レムリアの意志と決意が感じ取れた。


 ・・・もし私が“闇”に呑み込まれてしまえば、彼女は自らの“命”さえ賭けかねない。


 そんな“危うさ”さえ、感じられる。

 そして、その彼女を守るためなら、セイとハリー、契那の三人もまた、躊躇いなく“命”を投げ出すだろう。


 それが不本意ではなかったと言えば、嘘になる。・・・残念だが、私はそこまで出来た人間ではない。

しかし、私一人の力では、いささか荷が克ちすぎるという事実を認めざるを得ないようだった。




「・・・レムリア。」


 それは、けして叫ぶような声ではなかった。


「・・・セイ。ハリー。契那。」


 しかし、ありったけの意志と決意を込めて、私は彼らに呼びかけた。


「・・・すまぬ。・・・どうやら私一人では、いささか荷が重いようだ。

 ・・・頼む。少しだけ力を貸してくれ。」



 ・・・セレスティアンよ。星々の導きと加護を、彼らに。



 祈りを込めて、私は心の奥に創り上げたそのイメージを飛ばす。


 ・・・セイに。・・・ハリーに。・・・契那に。そして、レムリアに。。。


               ☆  ☆  ☆


 闇に包まれた夜空に浮かぶ欠けた月。傍らで小さく瞬く星々。

 そのわずかな明かりに照らし出された夜の草原。



『・・・天空に風。』



 私は今一度、古の聖句を唱和する。

 草原を吹き抜ける一陣の風。



『大地に水。』



 緑豊かな草原を流れる清流のせせらぎ。



『人心に炎。』



 草原の片隅に佇む(たたずむ)古い漠羅爾風の御堂。

 そこに灯る小さな明かり。


 一振りの太刀を手に、私はその御堂を囲む四門(“心”“技”“体”とその三位一体によって導かれる“力”の扉)をゆっくりと押し開く。

 月明かりと星明かり、そして、御堂の中の小さな灯火が、手にした灰色の太刀を照らし出す。



『・・・いにしえの盟約によりて』



 それは、遥か一千年の“時の彼方”。



『今一度、我は誓う。』



 初めて“阿修羅”を手にした時の“想い”が蘇る。



『我ここにことわりを乱す者を正さん。』



 それは、私と“阿修羅”との、“誓い”の言葉。




 「魔性」第百六十二話をお届けします。今回も、エリアドの視点からになります。

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