魔性の瞳-159◆「聖句」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂
強大な“力”を持つ、おそらく“敵”になるであろう相手を前に、不思議と緊張はなかった。
・・・ただ、己が為すべきことを為す。
『己が信ずることを為すために、この剣を取るがよい。』
“阿修羅”を託された時の“灰色の預言者”の言葉が思い出される。
・・・この男は、ここにあるべき存在ではない。
何故かはわからなかったが、そんな気がしてならなかった。
ゆえに。
私は、心の奥から湧き上がってきた、その呼びかけに応じる。
『・・・天空に風、大地に水、人心に炎』
──“古の聖句”。
けして“聖句”を用いることによって、特別な“力”を呼び出そうと考えたわけではない。ただ、自らの心の奥にある“意思”を“意志”として表わすきっかけとして、その言葉──言霊──がふさわしいと感じたのである。
『・・・古の盟約によりて、我ここに理を乱す者を正さん。』
私の中にその言葉がなぜ湧き上がってきたのかはわからない。
しかし、それが間違っているとは思わなかった。
「・・・“阿修羅”よ。この者を、この者が本来あるべき場所に帰すため、我に“力”を貸し賜え。」
私は剣を抜き放つ。
今回も、魔剣士エリアドの視点からお届けします。余りにも強大な相手であるラ・ルに、果たしてエリアドの策は通じるのでしょうか?