魔性の瞳-15◆「応諾」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)
楽団は、新たな曲を弾き出していた。ホールは踊り始めるカップルで再び賑わいを見せる。
「・・・ふむ。・・・そうだな。それは“悪くない”提案だ・・・。」
彼女の提案に、私はしばし考えてそう応じた。
「・・・いや。陛下には悪いが、このような退屈な宴の席で無為に時を過ごすことに比べてしまえば・・・ずいぶんと“魅力的な”提案・・・かもしれぬ。」
この時、私の中に彼女に対する興味が生まれていなかったと言えば、それはおそらく“嘘”になろう。
我知らず唇の端に浮かぶ皮肉っぽい微笑み。
「このまま行くか?」
私はあたりを見渡し、彼女にそう問いかけた。
新たにダンスに加わるには、タイミングが遅すぎた。更には、先刻にも増して招待客が増えており、さしもの広いホールも狭く感じるほどだった。
「・・・」
紳士は煌めく礼装に、貴婦人は豪奢なドレスを身に纏う――着飾った紳士淑女の華やかさは、恰もヴェロンディ連合王国の繁栄を誇示しているようだった。しかし、それは日夜“北の魔国”の影に怯えるこの国とその民が、重い現実から逃避しようとする虚構のようにも思えるのだった。
ヴェロンディ連合王国の北境に接する“北の魔国”は、魔王イウズの支配下にあって、常にヴェロンディ連合王国と戦火を交えていた。先の戦いでは、北の要所である要塞都市グラッブフォートが陥落し、戦線は大きく南に下っている。王都シェンドルも、“北の魔国”にとっては、十分射程圏内であったのだ。
それ故の幻想か、現実逃避か――宴は、いやが上にも熱気を帯びてゆく・・・。