魔性の瞳-158◆「死線」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂
「魔剣“阿修羅”か」
ラ・ルの美麗な面に浮かぶ冷笑は微塵も揺るがない。
「己が帯びしものの価値、果たして正しく理解しているのか?」
ぶぅん、と長大な両手剣が一転する。それだけでも、強大な威圧感が全員を圧迫する。
「ハリー、奴に仕掛ける。」
セイがハリーに囁いた。ハリーはセイに頷くと共に、契那にちらりと視線を振る。契那は、それに対して小さく頷いた。
「参るっ!」
裂帛の気合いを込めて、セイが爆発的にダッシュした。ラ・ルは真っ白な輝きを放つノルンに僅かに目を細めると、無造作にその長大な剣を横に薙ぎ放つ。だが。
『カォォンッ!!』
ラ・ルの剣は、セイを両断するすんでの所で契那の張った反発結界に阻まれる。全力を使い尽くしてがっくりと契那は崩れ落ちるが、ラ・ルの剣が弾かれた僅かな間を使って、セイは急角度で躰捩るとラ・ルの左脇を抜ける。
「ふ・・・無駄なことを」
いつの間にか右手から左手に持ち変わった大剣がセイの進路を阻む。一撃を溜めようとしているセイは、僅かに後手に回ってしまっており、ラ・ルの一撃を受ける体制にない。その時。
「ヴァン・ガードっ!!」
ハリーの気合い一閃、セイとラ・ルの間に、光り輝く戦士が現れた。その戦士が振るう光の剣と、ラ・ルの大剣が激突する。
『ギィィンッ!!』
辛うじて──本当に辛うじて光の剣は闇の大剣を退けると、間髪入れずにセイの渾身の気合いを込めた剣が相手を切り裂く。
「“光芒っ!!”(ひかり、あれ)」
大地より天に至る輝きの軌跡は、見事闇を両断して周囲に金の粉を散らした。剣を振り切ったセイは、二三歩歩くとがっくりと地面に膝を着く。みれば、ハリーも肩で息をしている。
「やったか・・・」
ラ・ルがいた所には、どす黒い闇の螺旋が渦巻いていた。その回転がどんどん速くなると、次の瞬間。
「あっ!!」
「うぐっ!」
「きゃぁ!」
セイ、ハリー、契那の三人に向かって、目にも止まらぬ速度で黒い槍が螺旋から打ち出されると、三人の躰を貫いた。
「大地の力よ!」
叫んだレムリアが守護の聖剣タインを振るうと、地面が盛り上がってその黒い槍を両断する! だが、三人は為すべくも無く地面に崩れ落ちると、その生命の血潮が周囲に流れ出す。
「ククク・・・無駄と言ったであろう?」
螺旋の中から、何事もなかったかのようにラ・ルが現れた。その左手には、件の大剣が握られている。