魔性の瞳-157◆「魔剣」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂
虚空に翳した手の中に、一振りの太刀が現われる。
灰色の簡素な鞘に収められた一振りの太刀。
──“阿修羅”。
『創世の魔剣』とも、『永劫の剣』とも呼ばれる、遥か古代に創られた伝説の魔剣。
かつて、私が一千年の時の彼方、古代スールの地を訪れることになった折り、“灰色の預言者”天査その人から託された剣であった。
私の手の中に音もなく出現した“阿修羅”の放つ波動に、男が怯む様子はない。
元より、“阿修羅”を目にした程度で男が怯むなどとは、少しも思っていなかったが。
男の巨大な剣に比べれば、灰色の鞘に入った細身の太刀は、いかにも非力に見えよう。
しかし。
「・・・貴殿がこの場所に何をしにきたかは知らぬ。・・・だが、貴殿があの男を利用することで、結果的に、この国が窮地に陥るというのであれば、このまま見過ごすわけにもいかぬ。・・・望みとあらば、試してみるか?」
それは、聞きようによっては冷やかにさえ聞こえるほど、静かな声。
強大な“力”を持つであろう、“敵”になるかもしれぬ相手を前に、不思議と緊張はなかった。
・・・ただ、己が為すべきことを為す。
『己が信ずることを為すために、この剣を取るがよい。』
“阿修羅”を託された時の“灰色の預言者”の言葉が思い出された。
・・・この男は、ここにあるべき存在ではない。
何故かはわからなかったが、そんな気がしてならなかった。
今話は、エリアド視点の一人称です。