魔性の瞳-154◆「激闘」
■ヴェロンディ連合王国/王都/大聖堂
『カキィィンン!!!』
セイの必殺の一撃は、ラ・ルに難なく受け止められた。それだけではない。間髪入れずにセイが飛び下がっていなければ、相手の反撃を避けられなかった。
「貴様・・・」
「避けたか。まぁ、これ位は出来なければな」
相手をする価値もない、と冷笑する相手に、セイは奥歯をギリギリと噛みしめた。
「どうした? 先程までの威勢は何処に行った?」
揶揄する様な相手に、セイは一歩も動けなかった。最初の一撃の時とは全く違う──強烈な威圧を相手に感じる。
“何と・・・この私が・・・”
じりじりと、脚が下がっていた。無意識で有る故に始末が悪い。本能的に、相手に押されてしまっていることに、セイは驚愕していた。
“今まで、何者と相対しても遅れをとることなど、なかったのに・・・”
だが、事実は如何ともしがたい。
「どうした? 来ないので有れば、こちらから行くぞ」
ふっと笑うと、その後に疾風が襲った。目にも止まらぬその剣の軌跡に、セイは辛うじてノルンを晴眼に上げただけだった。
「!!!」
『カォォォンッ!!』
だが。鐘が鳴る様な高音が響くのと、その裂帛の一撃は受け止められた。契那が両手を前に出し、セイを庇う様に立っている。
「ほぅ、魔導反発結界か。結界の厚みといい、詠唱の速度といい、たいしたものだな」
どこからか取り出したのか、長大な両手剣を振り切ったラ・ルは感心した様な口調で一人ごちた。
「だが、二度目はないぞ」
「それは、やってみなければ判りません」
「ふむ。そなたも己を過信している輩の一人か?」
ラ・ルの口元に、皮肉な笑みが浮かぶ。
「まぁいい。何れにせよ、次で仕舞いだ」
無造作に下段に構えると、ゆっくりと契那に向き直った。とっさに肩越しに振り返るが、後ろに吹き飛ばされたセイは、壁に打ち付けられてがっくりと首を垂れている。
「いいでしょう。わたくしの力──みせて差し上げます」
「それは重畳」
一呼吸、そしてその後に烈風が襲った。
「Shilde hochっ!!(反発結界)」
後ろに飛びすさりながら、契那はその一瞬で張れるだけの魔導反発結界を多重に張った。だが。
『バキャッ!!!』
その多重結界を苦もなく破った烈風は、勢いを弱めることなく契那に迫った!
「あっ・・」
全力を挙げた防壁を破られた契那には、迫り来る一陣の烈風がコマ落としの様に見えた。目を見開いて、その一瞬を待つ契那の瞳に、蒼い閃光が飛び込んだ。
『グワッキィッ!!!!!』
「むっ?」
片眉を上げ、ラ・ルは自分の一撃を受け止めた相手を見た。
「よう、契那ちゃん。遅くなって悪いな」
にやりと笑うのは、王国三騎士の一角。“真実の目”と呼ばれるハリー・ハウだった。ひゅん、と己が愛剣を一振りすると、契那とラ・ルの間に入った。
「やはりあんたか。まぁ、そうじゃないかって踏んでたんだけどね」
「ハリー・ハウか」
「如何にも。だが、オレだけじゃないぜ」
タインを引き抜いたレムリアと、後に続くエリアド・ムーンシャドウに顎をしゃくる。
「ほう。姫君に魔剣士か・・・」
漸く役者が揃ってきたか、とラ・ルは口端を上げて笑った。
珍しく今週末には仕事も何も入っていないので、更新をしました。危機一髪、ハリー達の到着で救われた格好のセイと契那ですが、味方が五人いても、底知れぬ力を持つラ・ル(R・L)に対して果たして対抗出来るのでしょうか。今後ともご期待下さい。