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魔性の瞳  作者: 冬泉
第五章「闇の舞」
153/192

魔性の瞳-152◆「秘伝」

■ヴェロンディ連合王国/王都/謁見の間


 セイと契那が謁見の間に着くと、ヴェロンディ三騎士が一、“慈悲”アクティウム・エパミノンダスは、まだヴェロンディの賢王アーサー・アートリムと話し込んでいた。

 二人が広間に入ってくるのを目にしたアクティウムは、王に一礼して話に一旦区切りを付けると、セイと契那に向き直った。


「契那にセイか。如何したか?」

「マスター、大聖堂の鍵をお借りしたいのですが?」

「ふむ、大聖堂とな。さほどの事態なのだな?」


 アクティウムの問いに、セイが返答する。


「はい。この城に何者かが忍び込んでおります。先程も、姫君が部屋で妖魔に襲われました。無論、全て撃退致しましたが」

「む? この結界に守られた奥津城に妖魔か?」

「はい。原因は、結界に乱れがあることだと推察致します。その為、大聖堂を調べる必要があると、我ら一致して判断致しました」

「“我ら”とは?」


 それまで無言で話を聞いていたアーサー・アートリム王が口を開いた。


「はい、姫君、ムーンシャドウ卿、ハウ卿に不肖私めでございます。」


 恭しく奏上するセイ。王は短く、そうか、とだけ言うと、後はまた口を噤んだ。


「陛下。事態を鑑み、大聖堂の鍵を彼らに貸与致します」

「よかろう、許可しよう」

「有り難き幸せ」


 王の許可を得て、アクティウムは首に掛けていた銀色の鍵を契那に手渡した。


「確かに、お預かり致しました、マスター」

「では、姫君、ムーンシャドウ卿とハウ卿が大聖堂正扉で待っておりますので、これにて失礼致します」


 深々と騎士礼を行うと、セイと契那は謁見室を辞去した。


               ☆  ☆  ☆


 セイと契那は、足早に大聖堂へ向かった。セイの長靴ちょうかの踵に付けた最上位騎士の証したる白金の拍車が床に当たって回廊に煌めく様な音を散らした。


「セイさま」


 契那は、脚を少し早めると、先を歩いているセイの隣に並んだ。


「もしも──大聖堂の大結界が毀たれたら・・・」

「即座に、北の魔国の知るところとなり、このシェンドルは戦火の渦に沈むだろう」

「それだけは、絶対に防がなくてはいけません」

「無論だ。易々とフラネースの宝玉と言われた我らが都を北の魔王に渡すつもりはない。たとえ・・・」

「セイさま?」

「・・・いや・・・。戯れ言だ。契那、聞き流せ。」


 ふと見たセイの横顔には、一瞬怖い程の決意が浮かんでいた。

 その表情を振り払うかの様に、セイは一層足を速めて先を急いだ。


               ☆  ☆  ☆


 先程、セイが一瞬見せた表情が契那には気になっていた。『ヴェロンディ三騎士』──“慈悲の槍聖”アクティウム・エパミノンダス、“真実の目”を持つ武人ハリー・ハウ、そして“正義の聖騎士”セイ・フロム・バーナード。何れも、ヴェロンディ連合王国が誇る最高位の騎士達だ。

 その三騎の中でも、セイの王家と国民に対する忠誠心は群を抜いていた。その清廉な外見と言動は国民からも絶大な信頼と支持を得ている。もっとも、直情径行で自分のことを顧みないセイは、三騎士の中でも一番不安定な存在でもあった。


“そんなセイさまが、あの秘技を受け継ぐなんて・・・”


 先代の三騎士の一人で『光の使い手』であったリスナル・リアンダーが、何故幾多の騎士の中からセイを自分の後継者として抜擢したのか──リスナル亡き今、真相は闇の中だが、契那には思い当たる点があった。


“光の秘技は、使い手を選びますから・・・”


 自らをも傷つけることがある『光の秘技』──それは、リスナルが現れるまで、長きに渡って継ぐ者がおらずに封印されてきた禁呪でもあったのだ。


“リスナルさまは、セイさまを『光の担い手』に選んだ・・・でもセイさまの心は、まだその重圧に晒されるには早すぎる・・・”


 心の中で重い溜息を漏らすと、先に歩くセイの後を追って、契那は足を速めた。



 [20.11.09]文章修正。

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