魔性の瞳-151◆「予兆」
■ヴェロンディ連合王国/王都/回廊
「・・・ふむ。“胡老石(ELDER STONE)”・・・ですか」
エリアドは複雑な表情で、真紅の手甲――“炎の鎧”――をじっと見た。漠羅爾旧王朝が盛んなりし頃、大地から生み出される強大な魔導力を注ぎ込んで創られた「大地の鎧」。
「・・・かつて、この“炎の鎧”を創り出す時にも使われたという、強大な“力”を秘めた古代の魔遺物(Ancient Relic)・・・」
記憶を手繰る様にエリアドは言葉を続けた。
「・・・残念ながら、あまり詳しいことは知らないのだが、“胡老石”には、何種類か属性のようなものがあると聞いたことがある。その空中宮殿の大聖堂にあるという“胡老石”も、そうなのか?」
そんなことを聞きながら、自分の中で次第に大きくなってくる違和感が、いったい何に起因するものなのか――その疑問をエリアドはずっと思案していた。
「そうだ。大聖堂の胡老石には、“光”の属性がある。何より、この都を長きに渡って護ってきた石だ。その力は強力無比だと言われているが・・・」
語尾を濁らせたハリーは、肩を竦めて続けた。
「・・・まぁ、結界が保っているのだ。闇に抗する力は残っていると考えるのが妥当だろうが──どうもね、その認識で枕を高くして寝られる気がしないのさ」
「ハリーの言う通りですね。本当に結界が完全に生きているのなら、妖魔が侵入してくることはあり得ない話ですから」
ハリーの言葉を、レムリアが首肯する。
「確かに、どうにも腑に落ちない点が多すぎる。セイと契那ちゃんが戻ってくる前に、打てる手を全て打っておく必要があるね」
「どうするのですか?」
「私の麾下の近衛軍と、セイ麾下の近衛騎士隊に臨戦態勢を取らせます、姫様。結界が撓められた時を狙って、北の魔国が押し寄せてこないとも限りません」
口調を改めたハリーからは、先程の気安い遊び人の様な雰囲気が消えている。
「お兄さまとアクティウムには?」
「こちらの意図と行動を伝えさせましょう」
ハリーの言葉に、レムリアの瞳が一瞬瞬いたかのようだった。何か言おうとして、その言葉を飲み込んだ。
「姫様。急いで大聖堂の大扉に参りましょう。セイと契那ちゃんも向かっているところだろうと思います」
「わかりました。ムーンシャドウさま、参りましょう」
レムリアはエリアドを促すと、踵を返して大聖堂へ向かって回廊を歩き出した。
お待たせしました。魔性第百五十一話です。相変わらずの牛歩更新で恐縮です。今後とも宜しくお願い申し上げます。
[20.11.09]文章修正。