魔性の瞳-14◆「提案」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)
「ご自分の意志で、選ばれた・・・」
エリアドの言葉を繰り返してみる。視線を上げた先の表情には、微塵の迷いも浮かんでいない。
「あっ・・・円舞曲が終わりますわ。」
楽団はゆったりとした円舞曲の最後のパートを引いていた。その曲は、フリヨンディの古い円舞曲で『西方楽土の円舞曲』と呼ばれていた。
やがて曲が終わると、ダンスを踊っていたカップルは、互いに深々と礼をしたあと、ホールに散って行く。
「エリアドさま。もし・・・宜しければ、もう少しお話しを伺いたいのですけれども。」
優雅に一礼すると、レムリアはそっと囁いた。まだ、宴はたけなわ・・・部屋に帰る時間でもない。それに、不思議と引かれるモノを相手に感じている。
“この感覚は、“叡智の修練”以来、初めて感じるモノ・・・自分でも説明が出来ないけれど、何か呼び合うモノを感じることも事実ね”
上目使いに、じっと見つめてみる。
余人ならば、“魔性の瞳”と目を合わせることなど決してないだろう。
だが、この相手は平気な謔、だった。鋼のような、余談を許さぬ目。自分同様、普通の人とは目線を会わせられないだろう。
その目が何を映し、何を見てきたのか・・・興味を引かれるところだった。
「如何でしょうか? 特に御希望がなければ、バルコニーにでも出ませんか?」
自分らしからぬ――頭の片隅でそう思いながらも、レムリアは自然と相手を誘うよう話しかけていた。