魔性の瞳-146◆「理解」
■ヴェロンディ連合王国/王都/回廊
「・・・気に、しないで下さい」
漸く――漸くレムリアは、その言葉を口にすることができた。その声が掠れたようにも聞こえたのは、レムリアがそれほどまでエリアドの態度に驚いたからだった。
何時も斜に構えた、鉄面皮の彼が──所在なげに、少し赤面してるかのように、謝っている?
そんなことを相手に強いる程、わたくしは我が儘に振る舞っていたというの?
「・・・」
色々な想いが経巡って、レムリアの心は大きく動揺していた。だが、流石に夢見――そんな心の内を表に見せず、努めて冷静に言葉を紡いだ。
「わたくしの方こそ──先ほどは助けに来て頂いたのにもかかわらず、御礼の言葉が遅くなりました。不作法なわたくしを、何卒ご容赦願います」
出来る限り丁寧に、出来る限りの優しさを込めて、レムリアは表現を試みた。不要に謙るような言葉を、相手に言わのは、単に自分が不出来な証拠だ。
しかし、そう思えば思う程、言葉と態度が硬くなる。
“これでは、わたくしの想いが伝わらない・・・”
心の中で至らない自分を叱咤しながらも、レムリアは顔をゆっくりと上げる。
伝えたいという想いを。
知って欲しい気持ちを。
例え、自分をさらけ出さねばならなくても――
「でも・・・」
笑みを浮かべてレムリアはそっと囁いた。
「・・・気に掛けて頂いて、とても嬉しく思っています」