魔性の瞳-142◆「警告」
■ヴェロンディ連合王国/王都/レムリアの居室
「いずれ、答えはわかる」
エリアドは、契那の言葉に平板な声で応じた。
恐らくく、レムリアと知り合う前のエリアドなら、それ以上の説明はしなかっただろう。
だが。
「・・・いや、これでは、言葉が足りない、か」
目線は、少し前をゆくレムリアから逸らさずに、エリアドは続けた。
「・・・レムリアが妖魔に狙われたのが、もし“単なる偶然”であれば、それに越したことはないと思っている。
だが、同時にその可能性はあまり高くないだろうとも思っている。彼女よりも、むしろ私のせいかもしれないがな」
エリアドの口調には、次第に自嘲気味な呟きが混じていった。
「・・・彼女がどう感じて、どう受け取るか・・・か。
・・・気の廻し過ぎの上に、配慮不足というわけだな。
・・・“自意識過剰”なのだろうな。・・・私も、・・・彼女も」
それだけを言うと、唇の端が小さく歪め、エリアドは先を急いだ。
「ご理解に問題があるように思えますけれども、ムーンシャドウさま」
だが、追及の手を緩めることなく、契那が言った。
「あなたの仰ったことは、姫さまに“姫さまがいらっしゃるから、結界に撓みが出来た”と受け取られてしまった、とわたしは申し上げているのです。おわかりになりませんか? 物事の受け取り方には二面性があることを、あなたはおわかりでしょう?」
僅かな苛立ちが、その声音には含まれていた。
「あなたは、理や運命にも影響を及ぼすことが可能な神器をお持ちになっていらっしゃいます。それを委ねられたあなたが、なにゆえに物事をご自分に都合良く理解されてしまい、客観的にみる努力をなさろうとはしませんのでしょう? 姫さまの事をさしおいたとしても、ご自分の尊厳のほうが重要なのですしょうか?」
言葉が過ぎたとは思いません──そう言う契那の双眸には強い輝きが宿っていた。
「あなたは、誰と関わり合いになっているとお思いですか? もっと、真剣に思考することを進言致します」