魔性の瞳-141◆「誤解」
■ヴェロンディ連合王国/王都/レムリアの居室
「・・・やはり、そういうことになる、か」
なかば予想していたこととは言え、あらためてそう断言されると、エリアドは言葉に詰まった。
『王陛下とアクティウムにすぐ報告しよう』
『それが良い。エリアドは姫君を護って付いてきてくれ』
セイとハリーの遣り取りに、エリアドも短く応じて言った。
「・・・了解、した。」
結界を撓めた者が何者で、それが誰の心の隙に付け込んで王宮内にまで入り込んできたのか、まるで想像できないわけでもなかったが、そうだと断言できる確証があるわけではない以上、この場でそのことに触れるのは躊躇われた。
もっとも、その何者かがどのような者なのかということは、当時の私には想像することさえできなかった。その時の私にわかったのは、「自分たちは今、途轍もなく厄介な事態に陥っている」という、単純な事実だけだった。
「・・・気にするな。・・・少なくとも、君一人のせいではない。」
どこか憂いを秘めたレムリアの顔をちらりと見て、私は小さくそう言った。
「・・・」
エリアドを見返したレムリアは、無表情に近かった。小さく頷くと、そのまま無言で脚を早める。
「ムーンシャドウさま、ちょっと。」
そう言って、エリアドの手を引っ張るのは契那だった。レムリアから少し遅れさせると、エリアドだけに聞こえるように小声で言った。
「この事態を招いた原因を、あなたが誰に特定しているかは判りませんが、その一端が姫さまにもあると言う憶測めいた発言は軽率です」
一つ溜息をつくと、念のために言っておきますが、と続けた。
「その様な意図など無かった、とわたしに言うのも意味がありません。要は、姫さまがどう感じられ、どうお取りになるかです。今の一言は、恐らく間違って理解されているとおもいますけれども」
どうされますの? と契那は形の良い眉をよせてエリアドを見た。