魔性の瞳-136◆「天秤」
■ヴェロンディ連合王国/王都/レムリアの居室
「もう聞こえていないさ!」
妖魔と切り結びながら、ハリーが叫んだ。
「“天秤”を使うのだろう! 今はそれが一番確実だ!」
セイは女蛇妖魔に閃光撃を打ち込んで進路から排除すると、剣を地面に突き立てた。一気にセイの“氣”が上昇する。
「セイに妖魔が取り付かないように援護する!」
目の前の妖魔を切り捨てると、セイの右側面を護るべく前に出る。
「・・・ふむ。」
“・・・“天秤”か。どうやら、何か手段があるらしい。”
「そういうことなら、この場はお任せするとしよう。」
ハリーの言葉にそう応じたエリアドは、反対側──彼女の左側面──に場所をとり、女蛇妖魔を牽制した。
「天空に風、大地に水、人心に炎…」
澄んだ声で、セイの詠唱が響き渡る。集中しているセイは無防備だが、その側面をハリーとエリアドががっちりと護っている。
「・・・始まりの光に在りし如く、世々の理に裁定を下したまえ」
きっと瞳を前方の闇に見据えると。両手を開いて前に突き出すと一声鋭く叫んだ。
「天秤っ(WAAGE)!!!」
途端、目映いが室内を満たした。セイの両手が白く輝くと、その眼前に光り輝く天秤が現れた。
「始まったな」
剣を下げると、ハリーが静かに言った。
見ると、女蛇妖魔も猛禽妖魔たちも動きを止めている。と、その姿が急速に希薄になっていく。
「“裁定”が下った。転移門(GATE)も崩れるぞ」
ごう、という音を最後に、黒く口を開けていた転移門がかき消えた。同時に、妖魔の姿も消滅していた。
「セイっ」
崩れ落ちるセイに走り寄ったハリーは、とっさにセイを抱き抱えた。セイは蒼白な顔色で、瞳を堅く瞑っていた。