魔性の瞳-135◆「転移」
■ヴェロンディ連合王国/王都/レムリアの居室
“妖魔とは・・・嫌な予感が当たったのか?”
エリアドと肩を並べたハリー・ハウは、手に馴染んだ愛剣『ヴァンガード』を握りしめた。例えどんな相手が来ようとも、後ろにレムリア姫を庇う状態で、一歩も引くことは出来ない。
「ハウさま、ムーンシャドウさま。援護、申し上げます」
後ろから契那の詠唱が始まった。
言葉の力が増すに従い、手にした剣が蒼く輝き始める。
鋭さを増した剣先に、その勢いに次々と妖魔は地に崩れていく。
「待たせたっ!!」
短く叫ぶと、セイが戦線に参戦した。聖剣ノルンが発する強烈な輝きが、妖魔を圧倒していく。趨勢は決まったかのように見えた。だが。
「あれは、何だ?」
背筋に寒気を感じて、思わずハリーは呟いた。黒く霞むような不気味な空間が女蛇妖魔の背後に沸き起こっている。
「転移門(GATE)! 結界に護られている、この聖域にか!」
信じられない事態だった。強固な結界で護られている宮殿深奥に転移門が開かれるとは。
「ハリー! エリアド! 転移門を封じる、援護を頼む!」
セイが女蛇妖魔に向かって走り出した。セイを妨害しようとする猛禽妖魔を牽制する。
☆ ☆ ☆
『ハウさま、ムーンシャドウさま。援護、申し上げます。』
少女の詠唱とともに、手にした刀に青白い輝きが宿る。
「・・・忝い。」
短く礼を言いながら、二人の戦いぶりをちらりと見る。
“・・・さすがは、ヴェロンディ三騎士と呼ばれるだけのことはある、といったところか”
このような場所に妖魔が現われる、などという、およそ信じ難い事態に遭遇して、とっさにこれだけの行動ができる者が、はたしてどれだけいるだろう。そのような者が二人──いや、あの少女も含めれば、三人も──いる。
“この国も、まだそう捨てたものではないか・・・”
そんなことを思いながら、目の前の猛禽妖魔を斬り伏せる。
残る猛禽妖魔をハリーに任せ、セイとともに転移門を開こうとする女蛇妖魔に対峙する。
「セイ殿、何か転移門を封じる手段をお持ちか? もしそちらになければ、私がやる。・・・いささか派手なことにはなるが、このうえ妖魔どもを呼び込むよりはマシだろうからな・・・」