魔性の瞳-12◆「逡巡」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)
レムリアは、自分に差し出された手をそっと取った。
男性にしては細い手だが、鋼が如く鍛えられていることを感じさせる。
表情からは・・・何も伺い知ることは出来ない。いや、何の表情も浮かんでいないと言う方が正しいのか。
“不思議な方”
正直な感想だった。その雰囲気には、自分と似ている点が感じられる。
“現世に大した興味を持ち得ない…そんな感じかしら?”
安易に思いこもうとする考えを、自分で嘲笑する。
“気休めは止めましょう。白昼夢を見たところで、現実には何の変化も無いのだから。”
それでも、そんな逃避を想ってしまうのが弱き“人”の性なのか。“心の向こう側”を覗き見た自分も、例外では無いというのが笑ってしまう点なのだが。
“逃避をなくすためには、人を止めなければね・・・”
そう思いながらも、レムリアはその思考が無意味であることを知っていた。夢見であるが為に、人の心を抑制する術を学んだ──だが、人で有るが為に夢見でいられるのだ。そこには、矛盾するような微妙な均衡があった。それを、真面目に考えようとすると、気が狂ってしまうだろう。ふと、そんな問いかけを踊っている相手にしてみようと思った。因みに、相手の踊りは予想外に旨い。
「エリアドさま。」
先程から、名前で呼んでしまっていることに気付く。不躾かと思ったが、相手が気にしている素振りを見せないので、そのまま呼びかける。
「・・・人が、人で有り続けるために狂わねばならないとしたら、エリアドさまは如何されますか?」
相手に柔らかく受け取られるように、顔に笑みを載せてみる。それで、問いかけの内容が柔らかくなるわけでもなかったが・・・。
今回は、レムリア視点になります。暫く、視点がレムリアとエリアドと交互に切り替わります。