魔性の瞳-125◆「警告」
■ヴェロンディ連合王国/王都/謁見の間→回廊
「・・・なるほど」
エリアドはハリーの言葉に小さく頷くと後に続いた。
「セイ殿には、正面からぶつかってみるしかなさそうだな。・・・それでダメなら、私もそこまでの人間、ということだ」
唇の端を歪めて小さく微笑う。
「ハリー殿。貴公には面倒をかけてしまい、誠に申し訳ないと思ってはいるのだが・・・。面倒ついでに、もう一つお教えいただけないだろうか?」
何故か、エリアドにはずっとさきほど謁見の間で見かけた一人の人物のことが気になっていた。エルド男爵ではない。彼と同行していたもう一人の人物の方だ。
その男の名乗った“ラ・ル”という名前には、何処か不吉な響きが感じられた。いずれどこかで剣を交えることになるのではないか・・・何の根拠もないということはわかっていたが、そんな予感すら感じられるような、そんな気がしてならなかった。
“レムリア”という、エリアドがこれまでに感じたことのない共感を覚える女性と知り合った矢先に、“彼”のような人物が現われたことが、エリアドには単なる“偶然”だとは思えなかった。
“私は、けして“運命論者”ではないつもりなのだがな”
エリアドの唇の端に浮かんだ笑みは、少しだけ大きくなっていた。
そんな時、後ろから声が掛かった。
「出来うる限り、彼の者には関わりを持たない方が宜しいでしょう」
その涼やかな声に振り向くと、先程謁見の間にて紹介された契那という少女が歩いてくる。
「おや、契那ちゃん。何時の間に追っかけて来たんだい?」
「マスターに、姫さまの所への案内を申しつかって参りました」
「お、それは助かるねぇ。ありがとう、契那ちゃん」
「セイさまも先に行かれておりますわ」
「それなら、尚更契那ちゃんがいてくれて助かるよ」
少し芝居がかった調子でおどけるハリーに、少女は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。