魔性の瞳-122◆「激高」
■ヴェロンディ連合王国/王都/謁見の間
「姫君に逢うだと・・・」
振り返ったセイの双眸には、剣呑な輝きが宿っていた。爆発しそうなセイを見ると、後から歩いてきたハリーは同様に足を止め、徐に壁に寄りかかると目を閉じた。
「如何なる了見で、その様な要求するのか。貴公は、自分が王陛下にどれだけ礼を失した言動を取ったか、理解しているのか?」
怒気を孕んだ口調で、セイは続ける。
「あまつさえ、先程“気が乗らぬ”と自らが断った相手に逢うだと? 貴公は礼節というものを理解しているのか?」
くるりと身を翻す。マントがふわりと揺れ動く。
「案内など、私はご免被る。常識も知らぬ者を姫君の元に案内しては、彼の男爵を案内するのも同じだ。失敬する!」
一言も口を挟む余裕を与えず、足音高く拍車を鳴らしてセイはそのまま立ち去った。終始無言であったハリーは、セイの姿が廊下の角の向こうに消えると、よっこらしょと壁から身を起こした。
「ま、らしい反応ではあるけどね」
肩を竦めるとハリーはひとりごちる。面倒事は、出来ればご遠慮願いたいんだけどねぇ、と呟いた後。
「責任感や礼節を説くのはワタシの仕事じゃないんだけどね。まぁ、こうなっては仕方がないかな。エリアド殿、少しでも自由騎士としての責任を感じるなら、取るべき行動がある筈だよ。おっと、『好きで自由騎士に成った訳でもない』という戯れ言を言うのは止めようね。実質的に権利を行使している今、その様な発言は本末転倒だって事くらいは理解しているだろうからね」
薄い笑みが、真面目か不真面目か判らない表情を彩る。
「今のままだと、“最低ヤロウ”の位に定着ってことになるね。件のお貴族様と変わらないよ、それではね」