魔性の瞳-118◆「苦笑」
■ヴェロンディ連合王国/王都/謁見の間
「・・・」
時々この人の腹の中には、黒い尻尾の生えた悪魔が棲んでいるのではないだろうか、と思うことがある。にこにこと微笑いながらそのように言う彼(アーサー王)の顔は、実に楽しそうだった。そうでありながら、 時折り見せる真摯な眼差しは、けして彼が一時の想いや感情に任せて言葉を発しているわけではないことを示している。いや、彼だけではない。かつて、私が捨てたにもかかわらず、ここにいる彼らは、私のことを迎え入れようとしてくれている。しかし、そして、だからこそ、彼らの言葉に甘えるわけにはゆくまい、とも思えるのだ。
“・・・彼女に出会う前の私であれば・・・、さして迷うことでもなかったのだろうがな。”
王宮への出入りがどうなろうが、ヴァルガー・v・エルドという鼻持ちならない貴族がどのような圧力をかけてこようが、おそらく、気にもとめなかったであろう。しかし、彼女とのことを言われて初めて、私は自分の中に“躊躇い”のようなものがあるということに気づいた。・・・いや、気づかされた、と言うべきか。そう、その時の私の中には、間違いなく“躊躇い”があった。
「・・・」
しばし瞑目して考え、言葉を探しながらゆっくりと口を開く。
「・・・陛下。・・・“灰色の預言者”殿から“阿修羅”を托された者として・・・、私には、為さねばならぬことがあります。・・・おそらく、レムリア殿に、“夢見”として、為さねばならぬことがあるように・・・。
けして、称号をいただくのが嫌だ、というわけではないのです。・・・しかし、そのような称号をいただいても、私には、この国のために・・・、レムリア殿のために・・・、何かできるほど長い時間、ここにとどまることはできない・・・。
そして・・・、何もできないにもかかわらず、そのような称号をいただくのは、心苦しいのです。」
少し間を置く。
「・・・レムリア殿との出会いは、・・・私にとって、生涯忘れ得ぬできごととなるでしょう。・・・ですが、それでも、私には、この国にとどまることはできないのです・・・。」
自分の心の中に抱えた“想い”とは裏腹に、私はそう言葉を選ばなければならなかった。表情にこそ出しはしなかったつもりではあるが、しかし、心中の葛藤を彼(彼ら?)から隠し切れると思っていたわけでは、決してない。
今回は、エリアド視点からお送ります。