魔性の瞳-117◆「身分」
■ヴェロンディ連合王国/王都/謁見の間
「ふむ・・・どうしても嫌だと言うことであれば、位返上も止む無しと思うが・・・だが、そうなると、王宮への入城もすんなりは行かなくなるな?」
アーサー・アートリムの最後の疑問形は、アクティウムに向けられたものだった。
「左様。サー・ムーンシャドウ、王陛下の仰る通り、貴殿の嫌がる“位”が貴公の宮殿での身分を保障しておる。本意では無かろうが、ここは事情を理解する必要があろうかと思うが、如何か?」
無論、レムリア姫様の為もある、とアクティウムは付け加えた。その言に、アーサー・アートリムも頷く。
「エリアド。先程、レムリアにもはっきり言われたのだが──私は、君がレムリアにしてくれたことにとても感謝しているのだよ。国元には帰ってきたが、あの娘は全く笑うことが無かった。レムリアを見る周囲の目は、邪なものであっても、優しいものではなかったからだ。だが、そんな不憫な娘に、君は笑顔を取り戻してくれた。そのことに関する礼の形、と言う訳ではいけないだろうか?」
真摯な言葉だった。真剣な表情で、アーサーはエリアドの目をのぞき込んだ。
「あの・・・差し出がましい事とは存じますが…」
澄んだ声が、皆の注意を喚起した。アクティウムの傍らに立っていた華奢な少女は、優しげな笑みを浮かべて言った。
「国の公式なお客様である“自由騎士”には、王陛下しか裁定できません」
「そうか。契那の言う通りだな。エルド男爵が圧力を掛けようとも、自分では如何ともしがたいということだ」
目を細めて、養い子に笑みを向けるアクティウム。
「恐れ多くも、国民全てに敬愛されている王陛下に圧力を掛けるなど以ての外、ということを考えると──エリアド殿、これは安全保障と言うことにもなるんじゃないかな」
面白そうな口調はハリー・ハウ。その横で、不正なことがあったら自分が成敗してやる、とセイが息巻く。
「そういうことだよ、エリアド。皆が言ったことを理解して貰えたかな?」
にこにこと笑ってアーサーが言った。