魔性の瞳-114◆「暗闇」
■ヴェロンディ連合王国/王都/王宮→謁見の間
大きな両開きの扉の向こうは、五百人からは入れそうな大広間となっていた。一番奥の壁には、壁一面を覆うフリヨンディとヴェルナの連合旗、通称“盟約の旗”と呼ばれる旗が天井から垂れ下がっていた。
「・・・私奴は、私に与えられた権利故に申し上げているのです」
甲高い、どこか神経質な声が広間に響く。そして、それに応じる静かな声も。
「貴公の権利については、十分に考慮をすると申している」
僅かなから苛立ちを口調に滲ませてヴェロンディ連合王国国王アーサー・アートリムが応えた。普段、冷静沈着で知られている名君にしては、些か珍しい態度である。
「ならばっ! 約束の儀に従って下さいませ!」
「斯様に冷静さを欠いては、纏まる話も纏まらなくなりますぞ」
静かな、何処か揶揄する様な合いの手。だが、エルド男爵は諦めきれないのか、尚も抗弁しようとする。
「しかしっ」
「・・・おや。何方かいらしたようですな」
その、見知らぬ人物からの言葉に臆することもなく、セイとハリーは歩を進めていく。王座の前には、国王アーサー・アートリムと、エルド男爵、そして非常に背の高い、黒衣の貴族風の男がいた。
「只今戻りました、陛下」
丁寧な騎士礼をするハリーとセイ。アーサーは二人に頷くと。
「サー・ムーンシャドウ。急なところ、良く来てくれた」
挨拶するアーサーの傍らで、おっかなびっくりエリアドの方を伺うエルド男爵を庇うかの様に、貴族風の男が一歩前に出た。片眉を微かに上げると、男は口を開いた。
「エルド男爵の所で食客をさせて貰っている、ラ・ルと言う者だ。高名なる騎士の方々、特に“魔剣士”殿と面識が持てて光栄に思う」
お見知りおきを、と如何にも慇懃に名乗る。