魔性の瞳-112◆「信頼」
■ヴェロンディ連合王国/王都/王宮正門→王宮
「おっと、それは失礼」
ハリーはおや、と言う顔をすると。
「では、差し支えなければエリアド殿と呼ばせて貰おう。あぁ、私の事は“ハリー”でも“ハウ”でも、何と呼んで貰っても結構だ」
お調子者め、と言うような呟きが傍らからしたが、ハリー・ハウは何処吹く風だった。
「さて、と。謁見の間に同行して貰うように言われている。レムリア姫様も一緒におられるよ。いけ好かない御仁も一緒だがねぇ」
これも運命かな、と肩を竦めて苦笑する。
「エルド男爵もいるのか」
「あぁ。やっこさん、何か噴火寸前だったけどな」
「虚仮威しであろう」
「身も蓋もないが──まぁ、その通りだな」
それぞれの性格なのだろうが、砕けた口調で話すハウとは対照的に、その堅い口調を崩さないバーナード。打ち解けているとは言えるのだろうが。
☆ ☆ ☆
「・・・こちらとしても、そう呼んでもらえる方がありがたい。」
二人の漫才じみた遣り取りに些か頭痛を感じながらも、エリアドはハリー・ハウと名乗った騎士の言葉にそう応じた。そのハリーは、謁見の間に同行して貰うように言われている、と続ける。
「・・・謁見の間、か。了解した」
エリアドはほとんど表情を変えずにそう応じて、ゆっくりとそちらに向かって歩き出す。
互いにヴェロンディ三騎士と呼ばれる二人が深い信頼関係で結ばれているであろうことは容易に見てとれた。彼らのような人物が“上”にいる間は、この国もそう簡単に滅びはしないだろうとも思えたが、同時に、彼らのような人物が“上”にいるにもかかわらず、この国のあちらこちらに見え隠れする退廃の兆しは、この国を覆う事態の深刻さを示しているのではないか・・・。エリアドには、そんな風に思えてならなかった。