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魔性の瞳  作者: 冬泉
プロローグ
11/192

魔性の瞳-10◆「旅立」

■ヴェルボボンク子爵館(正面玄関)


 ヴェルボボンク子爵館正面玄関の馬車寄せに一台の馬車が着けられていた。六頭立ての立派な馬車で、ヴェルボボンク子爵領の紋章である『大きな樫の木』を扉に付けている。御者台には御者が二名座っており、馬車の前にはヴェルボボンク子爵領の礼装を身に纏った若い騎士が一人、母屋の方を見ながら人待ち顔で佇んでいた。


 程なく、母屋から二人の人物が姿を見せた。若い騎士は迎えに数歩歩くと、脇によってびしっと一礼する。


「おはようございます、お屋形様。準備は全て整っております。いつでも出発可能です。」

「あぁ、御苦労だなフランク。何名連れて行くつもりだ?」

「はい。装甲騎兵一個小隊をウィリップまでの護衛に連れています。そこから先は、ヴェロンディの護衛隊に引き継ぎます。」

「お前は最後まで同行するんだぞ、フランク。」

「心得ております!」


 フランクと呼ばれたその若い騎士は勢いよく応えた。そんな若々しい騎士の態度に、子爵は自然と微笑んでいた。


「頼んだぞ、フランク。お前が護衛するのは、ヴェロンディ連合王国でもかけがえのないひとだ。くれぐれも間違いが起こらぬように、しっかり護衛を頼む。」

「粉骨砕身の決意で頑張ります!」


 子爵が頷くと、龍の盾が話しかけた。


「ウィル、レムリア殿が参られたぞ。」


 本館の中央にある階段を、一人の娘がゆっくり下りてきた。このヴェルボボンクを訪れる時に着ていたドレスと酷似した白い清楚な服を身に纏ったその娘こそ、ヴェロンディ連合王国国王アーサー・アートリムの妹姫、マーガレット・レムリア・オフ・ヴェロンディだった。小柄で華奢な躰、透明感のある白い肌、肩口で切りそろえられた黒曜石を思わせる髪、深い…深い海の底を思わせるような双眸。神秘的な雰囲気を身に纏った若い娘は、馬車の前に佇む三人の所まで歩いてくると、スカートの裾を軽く上げて優雅に一礼した。


「おはようございます、子爵様、龍の盾様。」

「おはよう、レムリア。」

「おはよう、レムリア殿。」

「レムリア、彼があなたを首都まで護衛していくサー・フランク・コーンウェルだ。フランク、こちらの方がお前が護衛するレムリア姫だ。」

「はじめまして、サー・コーンウェル。」


 レムリアは、花開いたようにうっすら微笑んだ。


「あ・・・ふ、フランク、と申します! レムリア姫様!」


 フランクは、この世のものとも思えない様な、儚げで澄んだ美しさのレムリアをみて、しばし言葉が出なかった。ようやく、挨拶の言葉をひねり出すと、あとはひたすら畏まってしまっていた。


「よし。知り合いになれたところで、早速出発してくれフランク。」

「はっ!」


 そっと馬車の扉を開けると、フランクはレムリアに深々と頭を下げた。


「姫様、どうぞお乗りになって下さい。」

「ありがとう、フランクさん。」


 そう言うと、レムリアは子爵と龍の盾を振り返った。


「子爵様、龍の盾様。お二人には、本当にお世話になりました。このご恩は・・・一生忘れません。」

「いいんだよ、レムリア。感謝には及ばない。自分の人生を、誰にも邪魔されずに望むままに生きるんだよ。」

「はい、ありがとうございます。」

「はっはっは。肩の力を抜くんですぞ、レムリア殿。気負っては事をし損じる。常に冷静沈着に物事に当たるが宜しいでしょう。」

「はい、心しておきます、龍の盾。」


 レムリアは、二人に挨拶した後、誰かを捜すように視線を辺りに振った。ここにいる三人以外に誰もいないことが判ると、軽く溜息を付く。


「・・・見送りには、来ていただけないのですね・・・」


 その時。いきなり頭を軽くポーンと叩かれてレムリアは目をぱちくりさせた。


「よぉ。何シケタ面してんだよ、嬢ちゃん。」

「て、テッドさん! 来てくれたんですね!」

「あったぼうよ。嬢ちゃんが里帰りする日に、見送んねぇって法はないだろ?」

「・・・えぇ・・・」


 言葉使いこそ乱暴だが、テッドの溢れんばかりの優しさを感じて、レムリアの黒い双眸には潤いが生まれた。そっと目頭をハンカチで押さえると、レムリアは心から嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ありがとう、テッドさん。ここでの滞在のことは、決して忘れません・・・」

「あぁ、気が向いたらまた遊びに来いよ。なぁ、みんな歓迎するぜ。」

「はい・・・きっと・・・また来ます。」


 テッドと子爵、龍の盾はお互い頷きあう。


「さぁ、レムリア」

「はい・・・」


 子爵と龍の盾の手を取って名残を惜しみ、テッドを軽く抱きしめた後、レムリアは馬車の人となった。静かに扉を閉めると、フランクが自分の重戦馬に跨った。


「それでは、行って参ります!」

「道中しっかりな、フランク。」

「先は長いぞ。あまり、最初からとばさんようにな。」

「小僧! 死んだ気になって護衛しろよ!」


 三者三様の言葉に見送られて馬車は静かに動き出し、正面の庭先をぐるりと回って、正門から長い旅路の途へ着いた。一路・・・ヴェロンディ連合王国の王都シェンドルへ・・・。




 何時もお読みになって頂き、有り難うございます。本回までが、「プロローグ」に当たります。次回はいよいよ舞台をヴェロンディ連合王国王都シェンドルに移し、もう一人の主人公である“魔剣士”エリアドが登場します。ご期待下さいませ。

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