魔性の瞳-108◆「真価」
■ヴェロンディ連合王国/王都/王宮正門
「・・・衛士の警護隊長?」
その男の言葉に、エリアドは口の中で小さく呟いた。その呟きには、微かだが、不審気な音色が混じっていた。彼の身のこなしは、さきほどの近衛騎士を名乗った者たちより数段上に思えたからだ。
「・・・」
エリアドは暫し、詰め所に戻ってゆく彼の後ろ姿を、じっと見送った。
「・・・どうやら、さきほどの言葉は撤回しなくてはならぬようだ。・・・やはり、この国には、いろいろと問題があるらしい。・・・私が口を挟むような問題ではないのかもしれないが。」
なかば独り言のようにそう呟く。
「・・・セイ殿と言ったか。私も、これにて失礼させていただく。・・・おそらく、人を待たせているかと思うので。」
そう言って、彼女に一礼する。
☆ ☆ ☆
「・・・」
黙して歩き去るシュテファンの背を見つめるセイの瞳には、鋼の輝きが宿っていた。
「世の中には、不条理と感じる事柄が多々存在する。残念だが、動かせぬ事実だ。だが、苦言や不満だけを呈し、己は何もせぬ様な手合いは、国に悶着を起こす手合いと何ら変わりはない」
夕闇が迫る空を仰ぎ見る。
「どの様な形であれ──“国を護る”責を、誰かが負わねばならぬ。その行為が正当に評価されなくとも、それが理由に己が為すべき事から逃れていたら、それは己に対する裏切りだ」
初見の貴公に語りすぎたか、と苦笑いを浮かべると、エリアドにセイも応礼した。
「愚かであれ、なんであれ──己が己であれば良い」
最後にそう言葉を結ぶと、馬を返して王宮へと戻り始めた。