魔性の瞳-105◆「挑発」
■ヴェロンディ連合王国/王都/王宮正門
耳障りな声が聞こえてきたのは、門を抜けてすぐのことだった。無駄に豪奢な服に身を包んだ騎士の一団がやってくるのが目に入る。そのような不必要な飾りの多い衣装など、死線を潜り抜けてきた者から見れば、“無駄”どころか、敵につけいられる“隙”以外の何者でもないのだが、どうやらこの国の騎士たちにはそういう考えはないらしい。
「・・・やれやれ、難儀なことだ。関わり合いにはなりたくない。こちらではそう思っていても、簡単には許してもらえぬらしい」
エリアドは口の中で小さく呟く。長旅にも耐えられる実用向きの革の黒い外套に身を包んだ私の姿は、この国では不必要に目立っているのかもしれない。そんなことを思いながら、まっすぐ馬を進めてゆく。
☆ ☆ ☆
“ヴェラット、リグリア、ギャラン、トーナ、フルーオーか。厄介な相手だな”
魔剣士に向かってくる近衛騎士達を見やると、シュテファンは軽く嘆息した。大公家の子息が二人も含まれている。これは、彼らとの揉め事が即座に厄介事となることが約束されているようなものだった。
“愚かな上に、気位だけ高い。全く、始末が悪い”
シュテファンには、後に起きるであろう騒動への邂逅がまず不可避に思えた。
「やぁ、魔剣士殿。ご機嫌は如何かな」
口先だけは友好的に、先頭に立って馬を進めていた近衛騎士が口を開いた。
「おぉ、名乗らねば失礼か。とは言っても、我が名は広く知られているからな。当然知ってはおろうな」
「あまり社交的な御仁ではないだからな。知らないかもしれないぞ、ヒューバート」
「ははは。その様な相手にも寛容な態度で接する。それが近衛騎士としての慎みよ」
傲然と嘯くと、その近衛騎士はエリアドに対して、サー・ヒューバート・ヴェラットと名乗った。
“やれやれ・・・始まったか。後は、魔剣士殿が賢明に振る舞ってくれることを祈るばかりだな”
いつも通り無表情なシュテファンの顔からは、如何なる想いがその心に渦巻いているか、知ることは難しかった。