魔性の瞳-100◆「変化」
■ヴェロンディ連合王国/王都/中央市場
「ご助言、感謝致します」
エリアドの“凍気”にあてられたのか、商人はただ口をぱくぱくするだけの状態だった。
若者の方は、少しホットした表情をエリアドに向けた。
「申し遅れました。私はフランツという者です。失礼ながら、貴方も外つ国のお方でしょうか?」
温厚な物腰と礼儀正しい物言いからは、そこはかとない気品が感じられる。
「もしも、お時間がありましたら、ご助力頂いた御礼の代わりに、一献如何でしょうか?」
私の泊まっている宿の酒場は非常に良い雰囲気ですよ、とフランツは続けた。
☆ ☆ ☆
「・・・残念ながら、私はこの国の生まれだ。長いこと異国で過ごし、最近戻ってきたばかりだから、この国の無神経さに、いまだに慣れることができぬ。・・・ただ、それだけのことだ。」
若者の問いに、私は冷やかな表情を崩すことなく、苦々しげに言葉を紡ぐ。
“・・・らしくない。なぜ、このようなことに関わったのだ?”
実際レムリアと出会ってから、私は自分が少しづつ変わってきているように感じていた。
なぜ変わったと感じるのかは、自分でもよくわからなかったのだが・・・。
「・・・お誘いはありがたいが、今はそういう気分にはなれそうもない。もし“縁”があれば、どこかで会う機会もあるだろう。
・・・もっとも、この国で“私”のような者と一緒にいると、廻りからどのような目で見られるかは“推して知るべし”だがな。
・・・私とは、これ以上関わらぬ方がいい。」
私は、その若者に興味を失ったかのように、馬首を返してその場から歩み去る。
外見的には彼とさして変わらぬ二十歳そこそこにしか見えぬ私に、このような物の言い様をされた彼が、どのように感じていたかは私にはわからない。だが、外見的にはどうであれ、その時、私はこの国に疲れていた。この国の濁り、澱んだ雰囲気に。
何時もお読み頂き、有り難うございます。おかげさまで、掲載百回となりました。今後とも面白くすべく精進して参りますので、宜しくお願い申し上げます。