魔性の瞳-99◆「厚顔」
■ヴェロンディ連合王国/王都/中央市場
王家の門を離れると、大回りして王城の正門を潜り街路をゆく。市場の喧騒に、私はグレイホークを思い出す。
“この国も、下町の雰囲気は他国とさほど変わらぬのだな。”
最初のうちこそ、そんな風に思っていたのだが、どうやら、今のこの国には、そんな当たり前のことさえ望めぬらしい。
不意に不愉快な光景が視界に飛び込んでくる。
商人から商品を巻き上げようとする横柄な騎士を、その背の高い若者は止めさせようとしているようだった。この国で久しぶりに見かける若者らしい正義感は好ましく思えたが、同時に、騎士を名乗る二人組の愚かさは度し難いものに思えた。
若者がヴェロンディの者ではないらしく、そして、騎士の二人組がこの国の者だということが、腹立たしさを助長させる。
私は少し離れた場所から、騎士だと名乗る二人組を冷やかに眺めた。その視線に気づいたのか。騎士たちは、ひとくさり捨てセリフを残して去っていった。
しかし、騒動はまだ収まらなかった。今度は、商人がその若者を非難し始めたのだ。私はもはや呆れるのを通りこして馬鹿馬鹿しくなっていた。
“・・・どうやら腐っているのは、宮廷だけではなかったらしい。”
「・・・気にすることはない。その男の自業自得だ」
若者の傍らに馬を進め、冷やかな口調で言う。
「・・・この国には“悪いことは悪い”“正しいことは正しい”と主張することさえできぬ者が多過ぎる。そのような状態を黙認することは、それに加担しているに等しいということを、この国の者は学ぶべきだな」
なかば独り言のように言って、こう続ける。
「これ以上、この場所にとどまっていても、何も良いことはないぞ。もし行くべき場所があるなら、そちらに向かうがいい」