魔性の瞳-09◆「修練」
■知恵の塔/修練室
大きく息を付くと、真理査は傍らの椅子に身を投げ出すように座った。心臓は早鐘のように打っており、全身を疲労感が覆っている。
「・・・なんて・・・こと・・・」
目の前の敷物の上には、蒼白な表情をしたレムリアが倒れ伏している。命には・・・別状はないようだが、意識不明で昏睡している。
「なんという、“心の力”の持ち主なの・・・まるで、まるで姉さまのよう・・・」
自分で漏らした言葉に、はっとする真理査。真理査の双子の姉、恵理査。現世に跳ばされたときに別れ別れとなり、いまだ行方が杳として知れない。その姉に、レムリアの波動は酷似していたのだ。
「姉さまの波動・・・?」
真理査の表情には深い憂いの色が浮かんでいた。それもそのはず。『知恵と静寂』を現す真理査の波動とは異なり、恵理査の波動は『知識と嵐』を象徴している。その性格も、全く正反対である。そんな、姉と似た波動を持つ娘、レムリア・・・。
「この娘の行く末には、どんな運命が待ち受けているのでしょう・・・。でも、それがどのようなものであれ、私はこの娘が知る得るべき事柄を教えなければならない。この娘が、自分の心を一人で護れるように、鍛え上げなければならない。たとえ、それが私自身に苦痛を伴うものであっても・・・」
嘆息すると共に立ち上がると、真理査は気力を奮い起こしてレムリアに冷静な、厳しい口調で言った。
「レムリアさん。寝ている場合ではありませんよ。まだ、試練は始まったばかりです。さぁ、立ちなさい!」